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シルバーバーチと白樺の木


 今回の物語は、先代の牧師であるユリウスが、まだ牧師になる前のパスターに語ったことを紹介します。

 

 「ノイよ、この辺境の地の牧師たちは、書物などに書かれた言葉を読む時に、日頃から観念というフィルターを超えた領域の先にある、真の言葉の意味やエネルギーを理解するための努力をしているのだ。」と、先代の牧師ユリウスは話しました。

 

 「どうして、そのような努力をされているのですか?」と、ノイは質問しました。

 

 「書物に限らず、人がコミュニケーションをとる時は、言葉のみで意思の疎通をしているわけではない。」

 

 「たったひとつの言葉であっても、その奥には、とても多くの意味やエネルギーが込められている場合だってあるのだ。」

 

 「けれども、言葉に対するそれぞれの観念は、その言葉に込められた真の意味を歪曲させたり、勘違いさせたりすることも多いのではないだろうか。」と、ユリウスが答えました。

 

 「具体的な例があれば、教えて欲しいです。」と、ノイはお願いしました。

 

 「それでは……、」と、ユリウスは言って、

 

 「ノイよ、『シルバーバーチ』という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか?」と、質問しました。

 

 「白樺の木でしょうか?」と、ノイは答えました。

 

 「よろしい。」

 

 「もしも同じ質問を3年後にすれば、ノイの答えは、まったく違ったものになるだろう。」と、ユリウスは話しました。

 

 「私には、まったく話が見えてこないのですが……。」と、ノイが話すと、

 

 「答えを知りたければ、この辺境の地の牧師たちに、『シルバーバーチ』について聞いてまわると良いだろう。」

 

 「そうすれば、『言葉』に対する思い込みや、そこに込めらている意味やエネルギーなどについて、少しは理解が深まるだろう。」

 

 「何故なら、理解とは、外側から来るように見えたとしても、自分の内側からもたらされるものなのだ。」と、ユリウスは答えました。


 「今回は、あなたに、『白樺の木』について話すことにしよう。」

 

 「白樺の木を通して、『シルバーバーチ』という名前の由来を考えてみれば、あなたにも、言葉の奥に流れているエネルギーを感じ取ることが出来るかもしれない。」と、先代の牧師ユリウスは語りました。

 

  「白樺の木について、あなたも調べてもらえばわかることだが、白樺の木は『先駆樹種』といって、パイオニアの役割がある。」

 

 「山崩れや樹木の伐採のあと、あるいは、山火事のあとの裸地などは、日陰がなく、また、遮るものがないために、強い日差し、乾燥、寒さ、強風などにより、条件が過酷となる。」

 

 「白樺の木は、そのような過酷な場所にも芽を出し、なおかつ栄養分が少なくても早く育つたくましさを持っているのだ。」

 

 「ところが、そのようなたくましさを持つ一方で、後から入ってきた他の樹木が生長して日差しを遮るようになると、次第に樹勢を失って枯れてしまうのである。」

 

 「その寿命は数十年程度であり、自然の営みの中における白樺の木は、森林を形成するための踏み台の役目を負っているのだ。」

 

 「また、白樺の木は、低地よりも高地のほうが樹皮の白さが増すのである。」

 

 「まるで、シルバーバーチが、『この樹木のことを理解すれば、何故、私がこの名前を名乗ったのかを理解することでしょう。』と語っているようではないか。」と、ユリウスは話しました。

 

 「おっしゃる通りです。」と、他の牧師が言いました。

 

 「シルバーバーチという名に込められた言葉の意味を、自分の内側で理解していけば、シルバーバーチの霊訓が、どのような役割を持っているのか?を、あなたも理解されることであろう。」

 

 「霊的真理とは、日常生活の全てに生かすものであって、語られた言葉を教義化したり、一字一句の言葉を覚えるために、霊的真理が語られているのではないのだ。」と言って、ユリウスは語り終えました。

 

 「ところで、あなたとは、いったい誰のことなのでしょうか?」と、ノイは不思議に思いました。