· 

辺境の牧師パスター


 「みんなには……、皆さん、キリストと同じように誰もが神の子であり、兄弟姉妹なのです。と、語り続けてきた。」

 

 「けれども未だに、私の心の中では、兄弟姉妹と思えない人たちを批判し、相手を低くすることで自分を高め、心の安定を得ようとしているのだ。」

 

 「そのような私がなぜ、キリストに仕えていると言えるのだろうか?」

 

 「そのような私が、先代の意志を受け継いでいると言えるのだろうか?」

 

 「私はその光に、本当に応えることが出来るのであろうか?」


 先代の牧師ユリウスは、パスターの心の内を理解しようと努めてくれました。

 

 かつてのパスターは、正義を貫くことが神の御心に叶う生き方だと固く信じた結果、いつしか教条的となり、努力をすればするほど、それが仲間内での対立や分裂を生み出してしまいました。最終的には争いが拡大し、家族も巻き込んでしまう結果となり、とうとう全てを失ってしまったのです。

 

 そして、酒におぼれ、いつしか死に場所を求めて彷徨っている所を、先代の牧師に救われたのでした。

 

 マタイによる福音書 22章37-40節

 「『心を尽くし、たましいを尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』これが第一で、最も重要な戒めです。第二も同じように重要で、『自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい』という戒めです。ほかのすべての戒めと預言者たちの命令も、この二つから出ています。」

 

 先代の牧師は、「パスターがなぜ、家族を失うことになってしまったのか?」について、辛抱強く対話を重ねながら諭していきました。

 

 そして、何よりも、神を愛し、人を愛することの大切さを、パスターと共に考えてくれたのです。

 

 マルコによる福音書 9章35節

 「イエスは腰をおろし、弟子たちを回りに呼び寄せると、『だれでも一番偉くなりたい人は、一番小さい者となり、誰にでも仕える者となりなさい。』と教えられました。」

 

 先代の牧師は、パスターの足りなかったところを見抜いて、高慢さに気をつけ、思いやりを持つ努力をするように諭していきました。

 

 辺境の牧師と呼ばれる男は再び決意をしました。

 

 「今度こそ、自分と関わっている人たちみんなを、兄弟姉妹として大切にしていこう。」

 

 「きっとそれが、失ってしまった家族や仲間たちへの罪滅ぼしになるのだろうから……。」

 

 マルコの福音書 7章20-23節

 「人の内側から出るもの、それが問題です。肉欲、盗み、殺人、姦淫、貪欲、邪悪、あざむき、好色、ねたみ、悪口、高慢、あらゆる愚かさ、それらのものはみな、人の心の中からあふれ出ます。この内側から出てくるものが人を汚し、神にふさわしくない者とするのです。」

 

 「神の御心に叶うかどうかは、私の内側の問題だったのだ。」

 

 「過去の私は、私の外側に問題があると思っていた。だから必死に他人を変えようとして、争いを起こしてしまったのだ。」


 シスター・エリスは、のちに辺境の牧師、パスターからこの話を聞くことになります。

 

 そして、パスターは、エリスを通して目に見えないスピリットたちから、牧師を続けるように伝えられます。

 

 その時のシスター・エリスの隠された能力を知っていたのは、辺境の牧師であるパスターだけでした。