「おじいさん、早くいこうよ~」と、ちいちゃんが言うと、
「そうよ、早くいこう」と、みゅうちゃんも言いました。
今日は、朝早くから、ふたりの声でにぎやかです。
「まだ早いから、おとなしく待ってなさい」と、お母さんに注意されました。
「だって~」と、ちいちゃんは納得がいかないようです。
これから、みゅうちゃんとちいちゃんは、とても楽しみにしていた映画を観るために、おじいさんと一緒にお出かけします。
今日、ふたりが観るアニメ映画は、妖精の国で、いろいろな妖精たちと冒険をする少年と少女の物語です。
映画館は、この町のとなりのとなりにある、大きな町にあります。
「ほらほら、映画館についたよ」と、おじいさんが言いました。
「いっぱい人がいるね」と、みゅうちゃんは、ちょっと驚いたようでした。
「思ったよりも、にぎやかだのう」と、おじいさんも頷きながら言いました。
「そうだね~。あっ、ポップコーンたべたい」と、ちいちゃんは言って、売店の方に歩きだしました。
「わかったから、迷子にならないでくれよ」と、おじいさんは、ちいちゃんの手をぎゅっと握りました。
「ジュースがのみたい」と、今度は、みゅうちゃんがおじいさんに言いました。
すると、みゅうちゃんの手もぎゅっと、おじいさんは握りました。
「わかった。わかった。その前に、席を見つけて座ろうね。そのあと、わしが買ってくるから、いいね」と、おじいさんは言いました。
そのようなやり取りをして、やっと三人が席に座り終えると、映画館の中が真っ暗となり、とても大きなスクリーンに映像が現れました。
「やった~」と、ちいちゃんが歓喜の声を上げました。
「ねぇ、あの森、まるちゃんと見た森にそっくりだよ」と、みゅうちゃんが言うと、
「あれ、妖精の森でしょ、真ん中に、とても、とってもおっきい木があるね」と、ちいちゃんが元気よく答えました。
「ふたりとも、少し静かにして見ようね」と、おじいさんが声をかけると
「は~い」と、ふたりは答えて、少しの間だけ、静かにしていました。
「ねぇ、あの女の子、お空から落ちているよ。だいじょうぶかな~」と、ちいちゃんが再び喋り始めました。
「ちいちゃん、シーっだよ」と、みゅうちゃんは注意しました。けれども、
「すっごいね~。まるちゃんと一緒に行った世界と、とてもそっくりだよ」と、みゅうちゃんも喋り始めました。
「いつも、おねえちゃんだけずるい」と、ちいちゃんは、ちょっとムッとしました。
「今は、ケンカをしないで、ふたりとも映画を楽しもうね」と言って、ヤレヤレといった顔をしながらも、おじいさんは映画を楽しむことにしました。
ちいちゃんとみゅうちゃんが静かにしていても、ワァワァとあちらこちらから、子どもたちの声が聞こえてきます。
おじいさんは、こどもたちがたくさんいる映画館が、こんなにも賑やかだとは知りませんでした。
それよりもおじいさんが驚いたのは、この映画に出てきた、妖精の森や大きな木、空から見た山々や街並みなどが、かつて、おじいさんが龍に連れていってもらった夢の世界と、とても似ていたことです。
「この映像を見ると、どうやらこの映画をつくった人も、同じ世界を見てきたように感じるのう」と、おじいさんは思いました。
「ちいちゃんとみゅうで、今度、まるちゃんに、妖精の国へ連れて行ってもらおうよ。ふたりでいっしょにお願いしよう」と、みゅうちゃんが聞くと、
「わかった。今日の夜に連れて行ってもらおうね」と、ちいちゃんは答えました。
すると、それに答えるかのように、
「いつだって、ご要望があれば、連れて行くよ。幼子の心を忘れなければ、誰だっていけるんだよ」と、龍のまるちゃんは、ちいちゃんの隣に来て話しました。
「んっ、いま、なにか言った?」と、みゅうちゃんとおじいさんの顔を交互に見ながら、ちいちゃんが聞きました。
「きっと、ちいちゃんも妖精の国に行けるだろうさ」と、おじいさんが言うと、
「だって、ちいちゃんは、おじいさんの孫だもんね」と、みゅうちゃんは、笑顔でちいちゃんに話しかけました。