あれからしばらくして、おじさんの智也さんは、大樹君の家に行き、そのまま一緒に住むことにしました。
こちらの世界に来た時期は、智也さんのほうが早かったのですが、大樹君の方が、はるかに成長しているように見えます。
そして、今まで大樹君がおこなってきた夢の世界でのお仕事を、智也さんは、大樹君に教わりながら手伝っていました。
そこに、大樹君の祖父である三郎さんがやってきました。
大樹君のお母さんのお父さんです。
「智也さんは、とても良い顔になったね」と、三郎じいちゃんが言いました。
「これも、みなさんのおかげですよ。今では私も、少しでも人の役に立ちたいと思うようになりました」と、智也さんは答えました。
「それは、本当に良かった」と、三郎じいちゃんは言いました。
「ところで、今日は、大樹に用事があるのだが、良いかな?」と、三郎じいちゃんが聞くと、
「もちろんいいけど、今日はどうしたの?」と、大樹君が聞き返しました。
「私の娘でもある、大樹の母親の敦子のときは、上手くいかなかったが……」と、三郎じいちゃんが言って、
「今度は、私の妻、つまり大樹のおばあちゃんのみちよさんとコンタクトを取ろうと思っている」と、続けました。
「それは面白そうだね。お母さんのときは、夢の中で会っても、『たっくんと会えて幸せだわ~。なんだか、一回り大きくなったみたいね。夢の中でも成長するのね。あっ、夢の中だから成長できるのね』と言う感じで、ちっとも、そこから先に進まないんだもん」と、大樹君はそう言うと、笑ってしまいました。さらに、
『あら、お父さん、どうしたの?何だか若返ったみたいね。お母さんが見たら、きっと驚いちゃうわよ。これじゃ~、お母さんの息子と孫になっちゃうわね。あ~、おもしろい。あっ、そうだったわ、これも夢なのよね』と大樹君が続けて言うと、
「そうっだった。そうだった」と言って、三郎じいちゃんもつられて笑ってしまいました。そして、
「それでは行こうか」と、三郎じいちゃんが大樹君に言いました。
一方、霊の世界から地上の世界に目を向けると、もう少しで朝を迎えようとしていました。
それからしばらくして、大樹君の母親に電話がかかってきました。
「あっこちゃん、ねぇ、聞いてよ」と、みちよさんは電話越しで言いました。
「お母さん、どうかしたの?朝早く電話をくれるなんてめずらしいわね」と、敦子さんは答えました。
「とうとう私もダメかもしれないわ~。今朝の夢でね、三郎さんとたっくんが出てきたのよ。こちらの世界はとても美しいから、二人で案内するって、満面の笑顔で言ったのよ」と、みちよさんが言いました。
「あっ、お母さんもそうなの~。私も夢で二人と会ったのよ」と、敦子さんが答えました。すると、
「とんでもないわ。私はまだ死にたくなかったから、三郎さんとたっくんには、どうか心置きなく、私を残して成仏して下さいって、お願いしたのよ」と、みちよさんは言って、
「あっこちゃんも、向こうに連れていかれないように、気をつけなさいよ」と、まるで幽霊にでも出くわしたかのように、敦子さんに説明をしました。
「たっくんと会えるならそれもいいわね」と、敦子さんは言って、
「そういえば、お母さんも病気をする前は、嬉しそうに夢の話をしていたのにね」と、続けました。
「そうね~。病気を抱えてしまうと、どうしても、からだの心配ばかりしてしまうみたいね」と、みちよさんは言って、それからしばらくの間、娘の敦子さんと世間話をしてから電話を切りました。
「どうして、こうなってしまったのだろうか?」と、三郎じいちゃんは、大樹君に聞きました。
「ぼくにもよくわからない」と、大樹君は答え、
「たぶん、おばあちゃんに、あまりしつこく会おうとすると、そのうち霊能者がやってきて、除霊とかされちゃうかもね」と言って、大樹君は笑っていましたが、
「地上の世界で生きている人間たちこそ、こちらからみれば、幽霊みたいな存在なのに…」と、三郎じいちゃんは話しました。大樹君も笑うのを止めて、
「そうだよね。幽霊になるのは、ぼくたち霊ではなく、人間たちだからね。みんなは、きっと思い違いをしているんだよ」と、語るのでした。