たっくんと夢の国のお仕事


 大樹君が地上を去ってから、そろそろ一年が過ぎようとしていました。

 

 みゅうちゃんは、大樹君と出会った頃に比べると、心身ともに少し成長したように感じられます。

 

 外に出て歩いてみると、梅の花が咲いていました。そろそろ桜の花も咲く気配を感じる、そんな暖かい日の夜のことでした。

 

 この日、みゅうちゃんは、妹のちいちゃんと一緒に眠りにつきました。

 

 目を閉じてしばらくすると、みゅうちゃんは夢の中にいることに気がつきました。

 

 みゅうちゃんと一緒に、ちいちゃんもいました。

 

 「おにいちゃ~ん」と、みゅうちゃんは声を出して、大樹君を探しました。

 

 「たっくんにいちゃ~ん」と、ちいちゃんも声を出して、一緒に探しました。

 

 すると、どこかで見たことがあるような、魅力的で優しそうな男の人が、二人のそばにいることに気がつきました。

 

 「お嬢さんたち、夢の国へようこそ、私がご案内します」と、男の人が言うと、

 

 いつの間にか、小さな子を胸に抱いている大樹君が見えました。

 

 「あっ、たっくんにいちゃんだ」と、ちいちゃんは言って、

 

 「ちいさな子供をあやしているみたい」と、話しました。

 

 「ほらっ、あっちを見て、ちいちゃん」と、みゅうちゃんが言いました。

 

 すると、女の人が泣きながら、「私の子供はどこにいるの?子供に会わせて!私の子供を返して!」と言いながら、必死になってあちこち探している姿が見えました。

 

 「あれっ、あの女の人から、白いひもが見えるね」と、ちいちゃんが言うと、

 

 「あの女の人は、地上世界の人ですよ」と、男の人が答えました。

 

 「こんどは、たっくんにいちゃんが、女の人のところへ行ったよ」と、ちいちゃんが言うと、

 

 「あっ、女の人がその子供を抱きかかえたわ。もう、二度と離さないって言ってるね」と、みゅうちゃんが言いました。

 

 「あの子のお母さんなのかな?」と、ちいちゃんが言いました。

 

 すると、「やぁ、ちいちゃん、久しぶりだね」と、大樹君の声がしました。

 

 「わぁ~、たっくんにいちゃん、少しおおきくなった?」と、ちいちゃんが聞きました。

 

 「ちいちゃんも大きくなったね。それに、みゅうちゃんもね」と、大樹君が答えました。

 

 「おにいちゃん、最近いそがしいの?おにいちゃんに会いに行っても、会えない日があるから……」と、みゅうちゃんが聞くと、

 

 「そうだよ。ごめんね。霊の世界は、思っていたよりとても忙しいんだ」と、大樹君は答えました。続けて、

 

 「それから、ちいちゃんが言ったように、あの小さな子は、あのお母さんの子供だよ。まだ、こっちの世界にきたばかりなんだ」と、大樹君は言いました。

 

 「やっぱり、親子ね」と、ちいちゃんは言いました。

 

 「今のぼくは、霊の世界にきたばかりの子と、まだ地上の世界で悲しんでいる母親とを、この夢の国で引き合わせる仕事をしているんだ。この夢の国では、睡眠中に、地上の世界の人と霊の世界の人とが会えるんだ」と、大樹君は言って、

 

 「ただ、必ずしも思い通りに、お互いが会えるわけではないよ。お互いに会いたいと思わなければ、会うことは叶わないからね」

 

 「それに、さっきのお母さんを見てわかると思うけど、とても深い悲しみによって、自分の視界が遮られてしまうと、わが子が近くにいたとしても、それがわからずにすれ違ってしまうんだ」と、話しました。

 

 「近くにいるのに、お互いがわからないなんて、とても悲しいことね」と、みゅうちゃんが言うと、

 

 「そうだね。ぼくは、すれ違う親子を引き合わせることによって、少しでも悲しみを喜びに変えていきたい」と、大樹君が答えました。

 

 「母親のほうは、目が覚めたあと、再びわが子を失ったように感じるかもしれません。けれども、霊の世界のわが子と会うことによって、慰めを得るとともに、わが子を永遠に失ったわけではないと、母親が悟るための手助けにもなることでしょう」と、男の人が語りました。

 

 「おにいちゃん、がんばってね~」と、みゅうちゃんとちいちゃんが大樹君に伝えると、

 

 やがて朝になり、二人が目を覚ましました。

 

 「たっくんにいちゃんが夢にでてきた」と、ちいちゃんが言いました。

 

 「そうだね。おにいちゃんが夢にでてきたね」と、みゅうちゃんは答えました。

 

 「それでね。たっくんにいちゃんは、お母さんに会いたいよ~って泣いていたの。それで、ちいちゃんが、ヨシヨシ泣かないでって、なぐさめたのよ」と、ちいちゃんは言って、

 

 「ちいちゃんは、夢の中だっていそがしいのよ」と、みゅうちゃんに伝えました。