女の子と偽物たっくん


 ある日の夜、みゅうちゃんは、妹のちいちゃんより先に寝ようと、いつもより早めに横になりました。

 

 このとき、部屋にはみゅうちゃんしかいませんでした。

 

 みゅうちゃんが目を閉じて、今にも眠りにつきそうなとき、誰かが布団をかけ直してくれました。

 

 すると同時に、みゅうちゃんは、大樹君の声が聞こえたように感じました。

 

 「おにいちゃんなの?」と、みゅうちゃんは声をかけ、気づいたら、そばにあった手をつかんでいました。

 

 それは、みゅうちゃんよりも小さな手でした。

 

 そこで、みゅうちゃんは、思い切って目を開けたのですが、そこにいたのは大樹君ではなく髪の長い女の子でした。

 

 「もしかしたら、寂しかったのかな?」と、みゅうちゃんは思いましたが、そのまま寝てしまいました。

 

  やがて朝になり、みゅうちゃんは、目を覚ましました。

 

 また別の日、みゅうちゃんは、いつものように布団の中で横になって、目を閉じました。

 

 すると、みゅうちゃんのすぐそばで、誰かの気配を感じました。

 

 「だれなの?」と、思った時には、みゅうちゃんの体がまるで金縛りにあったように、身動きができなくなっていました。

 

 みゅうちゃんは、恐怖で凍り付きそうになりながらも、必死に自分の中の恐怖心とたたかっていました。

 

 さらに、何者かがみゅうちゃんの体の中に入ろうとして、近づいてくるのがわかりました。

 

 その姿は、まるで大樹君のように見えましたが、何かが違いました。

 

 「あなたは、おにいちゃんじゃない!」と、みゅうちゃんは感じて警戒しました。

 

 「これでは、体に入れない」と、大樹君になりすました何者かが悔しそうに言いました。

 

 「ぜったいに負けちゃだめだ」と、みゅうちゃんは、力の限り心を奮い立たせました。

 

 それと同時に、みゅうちゃんには、「ちくしょう」という声が聞こえたように思いました。

 

 その声が聞こえたあと、みゅうちゃんの体は自由に動くようになりました。

 

 みゅちゃんは安心すると、そのまま寝てしまいました。

 

 さらに、あくる日の夜のこと、自分の思い通りにならないとわかった何者かが、みゅうちゃんのおなかの辺りをボコボコと押したり、デコピンをしてきました。

 

 今まで、みゅうちゃんは霊が怖いと感じませんでしたが、今回だけは、とても怖いと思いしました。

 

 それでも何とかその夜をやり過ごし、みゅうちゃんは眠りにつきました。

 

 次の日の朝、みゅうちゃんは目を覚ますと、さっそく昨夜の話をするために、おじいさんの部屋へと向かいました。

 

 おじいさんは、みゅうちゃんの顔を見て、「おはよう。なんだか今日は元気がないようだね」と、声をかけました。

 

 「昨日の夜、おにいちゃんの、たっくんの偽物が来たの。体が動かなくって、それで、すごく怖かった」と、みゅうちゃんは話しました。

 

 「みゅうちゃん、それは本当に大変だったね。今は大丈夫なのかい?」と、おじいさんが心配すると、

 

 「怖かったけど、みゅうはみんなに守ってもらっているから、大丈夫よ」と、おじいさんに、なるべく心配をかけないように話しました。

 

 「そうか……」と、おじいさんは言って、

 

 「金縛りの多くは、睡眠の乱れ、ストレスや疲労の蓄積によって起こるそうだが、もちろん、みゅうちゃんのは、そのようなものとは違うだろう」と、おじいさんは話し、

 

 「みゅうちゃん、よく覚えておいて欲しいのだが、肉体を失っても、自分が死んで霊になったことに気がつかない人もいれば、それを認めない人もいる」

 

 「さらに肉体を失っても、なんとか地上の世界で、自分の幸せだけを叶えようとする人、あるいは、人を騙してでも、自らの欲求を満たそうとする人がいる」

 

 「そして、人が抱く恐怖や心配、不安の念によって出来る、ほんの少しの心のすき間を狙って、自分の思い通りにしようとする連中もいる」と、おじいさんは語って、

 

 「これからは、さらに気をつけることだ」と、みゅうちゃんに言いました。

 

 「わかったけど、やっぱり怖いのは嫌だな」と、みゅうちゃんが言いました。

 

 「出来ることなら、わしの大事な孫に、そんな嫌なことを経験させたくはないが……」と、おじいさんは話し、

 

 「そうは言っても、魂が成長するためには、一通りの辛くて嫌な体験を通過しなければならないと、多くのスピリットたちも言っているのだよ」と、語りました。

 

 「そうなのね」と、みゅうちゃんは小さな声で言うと、さらに、

 

 「でも、何で魂の成長が必要なの?」

 

 「何で嫌なことを経験しなくてはならないの?」と、おじいさんに質問しました。

 

 「それについて、今度、俊哉とゆきさんに聞いてみるとしようか?」と、おじいさんが言うと、

 

 「いつ会うの?ゆきさんは遠くに住んでいるって聞いたよ」と、みゅうちゃんが聞くと、

 

 「近いうちに、パソコンを使って、オンラインで一緒に話そうと思っている」と、おじいさんは話し、続けて、

 

 「遠くにいても、お互いの顔を見ながら会話が出来るとは、まったく便利な世の中になったものだ」と、言いました。

 

 「オンラインを使って、神さまといろいろなお話がしたいな~」と、みゅうちゃんは、やっと笑顔を取り戻しました。

 

 そして、「優しいのは悪いことではないが、十分に気をつけることだ」と、目に見えない誰かが、みゅうちゃんを見守りながら語るのでした。