学生服姿の大樹君が姿を現してから、一週間が経ちました。
満開だった桜の花は、そのほとんどが散っていき、若葉が少しずつ顔を出し始めました。
寒さが遠のき、春らしいあたたかな日が続いています。
みゅうちゃんは、あれが現実のことだったのか、夢の中のことだったのか、自分でもわからないままでした。
それでもみゅうちゃんは、大樹君と会えたことがうれしかったし、大樹君が霊として生き続けているのかもしれないと思えて、とてもうれしかったのです。
その経験から、みゅうちゃんの中の何かが変わり、安堵の気持ちが芽生えてきました。
「はぁ~、良かった。これで一安心だよ」
しばらく姿を見せなかった龍のまるちゃんも、みゅうちゃんの今の気持ちを感じて安心しました。
「誰もがみんな、別れがあれば、出会いがある」
「悲しいことも、つらいことも、楽しいことも、うれしいことも、他にもたくさん、たくさん、いろんなことがある」
「それは、みゅうちゃんと大樹君にも当てはまることなんだろうね」と、まるちゃんは思いました。
やがて夜になり、みゅうちゃんは、いつものように眠りにつきました。
みゅうちゃんが目を閉じて夢の世界に入ろうとしたら、
「わぁ~、世界が光ってる」と、みゅうちゃんは心の中で叫んでいました。
さらに、現実の世界で目を開けたはずのみゅうちゃんでしたが、世界のすべてが光そのものに包まれていました。
そこに誰かの気配を感じました。
「おにいちゃん?」と、みゅうちゃんは言いました。
本当は、声に出して言ったわけではないのです。
大樹君に、心の声で語りかけたのです。
そして、大樹君の声で、「そうだよ。みゅうちゃん」と、伝わってきました。
そのように、心の声で、おたがいの思いを伝えました。
すると、みゅうちゃんの後ろから、大樹君はやさしく抱きしめました。
それと同時に、大樹君の抱きしめた両腕が胸の前に現れ、それをみゅうちゃんは見つめていました。
そして、振り向こうとしたみゅうちゃんに、「そのままでいて……」という、大樹君の思いが伝わってきました。
「みゅうちゃん、ぼくは死んでなんかいない。ぼくは生きている」
「たしかに肉体は死んだのかもしれない。それでもぼくは、こうして生きている」
「地上に生まれたことで、本当のぼくは死んでしまった」
「だけど、地上で死んだことで、本当のぼくは生き返ったんだ」
「ほら、本当のぼくがいる世界は、こんなにも光っているでしょう」
「それから、今はまだわからないだろうけど、みゅうちゃんとぼくは、過去の人生でも一緒だったんだよ」
「今回も、そして、これからも……」
「愛は死を超えるんだ」
「だから悲しまないで。霊の世界はとても美しく、とても楽しいんだよ」
「だけど、みゅうちゃん、今のぼくは行かなければならない」
「少しの間だけど、いったん、お別れするよ」と、大樹君は語り終えました。
気がつくと、光の世界のさらに奥に、いちだんと強く輝く光が、みゅうちゃんの前に現れていました。
みゅうちゃんの心は、「かみさま…」という思いで、いっぱいになりました。
こうして、大樹君は光輝く世界へと帰って行きました。
「またね。おにいちゃん」
その光が消えた後も、みゅうちゃんはしばらくの間、そのまま見つめていました。
「多くのものがそうであるように、二人は、その世界から地上に来ました」
「あれっ」と、みゅうちゃんは言いました。
「誰が言ったの?」と、今度は心の中で言いました。
大樹君がみゅうちゃんに伝えた、お別れとは、
地上世界と大樹君とのお別れであり、みゅうちゃんと大樹君とのお別れではありません。
たしかに、肉体を持っていた頃の大樹君としては、みゅうちゃんと別れることになりました。
けれども、霊として生き返った大樹君は、みゅうちゃんと再び出会うことが出来ました。
みゅうちゃんと大樹君のように、出会いや別れの物語は、わたしたちみんなが経験します。
そのように、こうして愛する人とは、ひとときの別れがあっても、永遠の別れがあるわけではないのです。
目に見えなくても、愛でつながった人たちとは、いつも一緒にいるのです。