大樹君と親戚のおじさん


 みゅうちゃんの住んでいる町の隣町には、大樹(タイキ)君という少年が住んでいます。

 

 みゅうちゃんのおじいさんと大樹君の親戚のおじさんは、古くからの知り合いでした。

 

 大樹君は、そのおじさんの話を聞くのがとても好きだったので、近頃は、自分ひとりで一時間もバスにのって、おじさんの家に行くのでした。

 

 今回も、親から頼まれたお土産を渡すと、さっそくおじさんから話を聞くための準備をしました。

 

 それを見ていたおばさんが、「うちは女の子しかいないから、たっくんが来るのをすごく楽しみにしていたのよ」と言いました。

 

 さらに、「話が終わったら、たくさんご飯を食べていってね」と、おばさんは言いました。

 

 そして、大樹君の準備が終わったのを見て、おじさんは話し始めました。

 

 「大樹は、君のお母さんがなぜかインディアンに見えて、恥ずかしいと言っていたね」とおじさんが聞きました。

 

 「そうなんだ。お母さんが昼寝をしている姿を見ると、なぜか心の中でインディアンの姿が浮かんでくる」と大樹君は答えました。

 

 「ちっとも恥ずかしがることはないよ。おじさんは、インディアンを尊敬している」

 

 「今日は、ネイティブアメリカンの話にしようと思う」と、おじさんは言いました。

 

 大樹君は忘れないように、おじさんから聞いた「ネイティブアメリカンの大いなる神秘」についてノートに書き残すことにしました。

 

 ネイティブアメリカンの教えに、「大いなる神秘(Great Mystery)」がある。

 大いなる神秘は、ネイティブアメリカンにとっての創造主・宇宙の真理のことである。

 ネイティブアメリカンは、大いなる神秘のことを「ワカン・タンカ」と呼んでいる。

 また、「大いなる神秘」のことを、英語で Great Spirit と表すこともあり、日本語では「大霊」と呼ぶこともある。

 

 「大いなる神秘」は、「宇宙の根本原理」であり、みんなが抱いている神さまのような人間的存在ではない。

 「大いなる神秘」には、始まりも終わりもない。

 「大いなる神秘」のもとでは、二つ足の生きものも、四つ足の生きものも、石も草も木もすべてが平等であり、尊重されるべき存在である。

 「大いなる神秘」のもとでは、すべてが繋がっており、すべては共有される。

 

 大樹君がこのようにノートに書いた後、一つの疑問が浮かびました。

 

 「大いなる神秘は、神さまとは違うの?」と、おじさんに聞きました。

 

 するとおじさんは、目を閉じて黙ったまま、何も言いませんでした。

 

 そのまま大樹君が静かに待っていると、おじさんは、ふたたび話し始めました。

 

 「私たち人間には、大いなる神秘と私たちとを結ぶための橋渡しが必要であり、その橋渡しの役割をしている存在を、私たちは神と呼んでいる」とおじさんは語りました。

 

 少しの間があって「そんなふうに、私は感じている」と、おじさんは語りました。

 

 「ちょっと、難しくなってしまったかな?」と、おじさんは大樹君に聞きました。

 

 「ええ、とってもわからなくなりました」と、大樹君は答えました。

 

 「ここでいったん休憩して、コーヒーでも飲もう。お菓子もあるしね」とおじさんは言いました。

 

 「砂糖は、三個でお願いします」と大樹君が言うと、おばさんは笑顔で「オーケーよ」と答えました。