記憶喪失患者の憑依霊


●記憶喪失患者の憑依霊
 記憶が全部消失し、自己認識も失い、見知らぬ場所を彷徨い歩いた後、ふと本来の自分に戻るが、その間の行動については何一つ覚えていないという、いわゆる記憶喪失症は、決して珍しくない。そうした症状が実は、スピリットの憑依によって惹き起こされていることを実証する例が、我々のもとには豊富にある。
 その中からC・Bという名前の青年の例を紹介する。
 この青年は父親と共に事業を始めたばかりの頃のある日、早朝に家を出たきり消息不明となった。両親は心当たりのところを探しまわったが、数週間経っても、ようとして行方が知れず、ついに我々のもとを訪れて、霊的な手段を講じてほしいと要請した。
 そこで我々のサークルで集中的な祈念を行い、両親の元に手紙を書いて消息を告げてあげてほしいと祈った。
 すると、すぐこの翌朝には、その青年は、両親のことがひどく気がかりになって手紙を書いた。
 その手紙によると、彼は米国海軍に入隊していて、今サンフランシスコで戦艦に乗り組んでいるー数年は帰れない、ということだった。
 両親はさっそく返事を書き送り、一日も早く除隊して帰宅してほしいーそのための手続きならどんなことでもするから、と頼んだ。ところが息子からは、今は兵役についていることに生き甲斐を感じているから、余計なことはしないでほしい、という返事が届いた。
 それが、我々の二度目の集中祈念の前日だった。
 そしてその当日、サークルで祈念している最中に、ジョン・エドワーズと名乗るスピリットが私の妻に乗り移って語ったいきさつによって、その青年の記憶喪失は、そのスピリットの憑依であることが判明した。以下はその招霊会の記録である。
 

 1922年12月13日
 スピリット=ジョン・エドワーズ
 患者=C・B


 サークルのメンバーが賛美歌[命綱を投げ与え給え]を歌っているうちに、興味深いことが起きた。スピリットが乗り移ると、霊媒がロープにつかまって左右の手で交互によじのぼっているような仕草をしたかと思うと、今度は泳いでいるような仕草をし始めた。

博士「命綱にすがりついていましたね?漂流していたのですか。どちらからおいでになりましたか。ここは陸の上ですから泳ぐ必要はないのですよ。一体どうなさいました?」
スピリット「私の方こそ、それが知りたいのです」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「(サークルのメンバーの方へ顔を向けて)この人(博士)は私を死人呼ばわりしてる!」死んでなんかいませんよー生きているというほどの実感もないけどね・・・」
博士「どちらから来られましたか?」
スピリット「大勢の人達に連れてこられました」
博士「それは誰ですか」
スピリット「大勢の人達です」
博士「私の目には、その方達の姿が見えないのですが・・・」
スピリット「なぜこんなところへ来なきゃいけないのか分かりません。海に出てる方がいいのですが・・・」
博士「以前にも航海されたことがあるのですか」
スピリット「ええ」
博士「なぜ海がいいのですか。よく航海されるのですか」
スピリット「ずいぶん船に乗りました」
博士「陸上にはいたくないのですか」
スピリット「陸に上がった魚にはなりたくないのでね。今回もまた出かけようとしていたら、あなた達が引き戻したのです。あの人達も、なぜ私を陸へ引き上げたのでしょうね?」
博士「あなたは海で溺れ死んだのでしょう?」
スピリット「もしそうだとしたら、どうしてここにいられるのですか」
博士「スピリットとしてなら来られます」
スピリット「それは『魂』のことですか」
博士「そうです」
スピリット「だったら、その魂は神のもとに行ってるはずです」
博士「神はどこにいるのですか」
スピリット「ご存知ないのでしたら、日曜学校へでも通われてはいかがですか」
博士「通いましたよ。でも、答は得られませんでした」
スピリット「通われた教会がまずかったのでしょう」
博士「どの教会へ行くべきだったのでしょうか」
スピリット「いろんな教派があります。みんな同じではありません。でも、神についてはどの教会でも教えてくれるはずです」
博士「あなたが通われた教会は何といいましたか」
スピリット「私にとっては、一人きりになれるところが教会です。教会そのものにはあまり通っておりません。どの教派にも属しておりません。海へ出れば教会へは行けません。兵役につくのですから・・・」
博士「どこの教会が一番気に入りましたか」
スピリット「どこもみな似たようなものです。形式が違うだけです。どれも一つの神のもとで、死後のこと、天国と地獄のこと、そしてキリストが我々の身代わりとして罪を背負って死んでくれたことなどを説いております。だから、どこの教会に所属しても同じことだという考えです。すべてが神を賛美しているのですから、同じことです」
博士「リベラル派だったのですね」
スピリット「それもどうですかね。自分がどういう種類の人間だか、自分でも分かりません。私は私なりの宗教をもっていました。ですが、艦長への体裁もあって、時折は教会へ出席せざるを得なかったのです」
博士「何という軍艦に乗り組んでいたのですか」
スピリット「いろんなのに乗り組みました」
博士「水兵だったのですか」
スピリット「海軍に所属していました」
博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「何月であるかも分からんのです」
博士「何年であるかが分かりませんか」
スピリット「分かりませんね」
博士「1922年では?」
スピリット「いや、それは違うでしょう」
博士「じゃ、何年でしょうか」
スピリット「1912年でしょう」
博士「どこを航海していたのですか」
スピリット「戦艦『シンシナティ』に乗り組んだことがあります」
博士「どこへ向けて航海していたのですか」
スピリット「太平洋沿岸を航行していたこともあります」
博士「パナマ運河を通過したことは?」
スピリット「ありません。一度だけ近くまで行ったことはありますが、通ったことはありません」
博士「艦上では何をしてました?」
スピリット「何でも、やるべきことをやってました」
博士「何歳でしたか」
スピリット「どうも思い出せなくて・・・」
博士「それで、また海へ戻りたいとおっしゃるのですか」
スピリット「ええ、陸にはいたくないのです。私は、陸の人間ではないみたいで・・・。海の生活もなかなかいいものですよ。自分の役目さえ果たしておれば、きちんと食事は出してもらえるし、気苦労もないしね」
博士「役目はたくさんあるのですか」
スピリット「それはもう、甲板磨きをはじめとして、いつも何かすることがあります。艦長は部下がぼけっとしているのを見るのが嫌なのです。他にすることがない時でも、『磨く』という仕事があるのです。階段、機械、器具ーすべて磨かないといけないのです。だから、いつもピカピカ光ってました。大きな船でした」
博士「戦艦に乗り組んでいたのですね」
スピリット「いろんな種類の戦艦にね」
博士「実戦にも出ましたか」
スピリット「いや、戦闘行為はしていません。キューバ戦争は戦争というほどのものではなく、フィリッピン戦争の方がもう少し戦争らしかったです」
博士「あなたは、それに参加したのですか」
スピリット「湾の中までは入りませんでした。戦艦の全部が湾に入ったわけではありません。まわりで監視をする戦艦も必要なわけです。全艦隊が湾の中に入ってしまえば、袋のネズミになってしまいます。何隻かはまわりから見張る必要があるわけです」
博士「あなたのお名前は?」
スピリット「私の名前?しばらく呼ばれたことがないので忘れました。呼び名はジョンです」
博士「ジョン・何とおっしゃいましたか」
スピリット「ジョン・エドワーズ」
博士「 太平洋沿岸での勤務もありましたか」
スピリット「ありました。どちらかというと東海岸の方が多かったですが・・・」
博士「艦を下りてから除隊になったのですか」
スピリット「(ゆっくりとした口調で)艦を下りてから?」
博士「艦を下りたんじゃなかったのですか。それとも何かの事故にでも遭いましたか」
スピリット「分かりません」
博士「病気になりましたか」
スピリット「知りません」
博士「マニラ湾が最後でしたか」
スピリット「いえ、それはだいぶ前のことです」
博士「その後どこで勤務しましたか」
スピリット「マニラ湾で勤務したのは、ずいぶん若い頃のことです」
博士「1898年のはずです。海上勤務に出てどれくらい経っていましたか」
スピリット「知りません。1912年という年までは覚えています」
博士「その年に、あなたの身の上に何か起きたのでしょうか。病気にでもなったのでは?」
スピリット「頭がこんがらがってきました。たしかーはっきりとは思い出せないのですがー艦にペンキを塗っていたと思うのです。どこだったかは知りません。ドックの中ではありません。艦の外側に足場を組んで、その上に乗って塗っていました」
博士「その時、何かが起きたのでしょう?」
スピリット「頭が変になったのです。多分、持病のめまいの発作が起きたのだと思います。頭の中で泳いでいるみたいな感じがしたのです」
博士「艦にペンキを塗っていたとおっしゃいましたね?」
スピリット「汚れを落としたり修理したりしていました」
博士「ドックの中にいたのですか」
スピリット「何が起きたのかは知りませんが、気がついたら海の中にいました」
博士「足場から落ちたのですよ」
スピリット「それは知りませんが、とにかく、じきに回復しましたよ」
博士「多分、その時にあなたは肉体を失ってスピリットになられたのです」
スピリット「スピリットになった?どういう意味ですか」
博士「肉体をなくしてしまったということです。今のあなたは、ここにいる私達には見えていないのですよ」
スピリット「でも、これから海へ出かけようとしていたところですよ。もっとも、自分の半分が水兵で、もう半分が誰か別の水兵に教えてやってるみたいでした(患者に憑依していることからくる錯覚)。その水兵には潮風の香りが漂っていました。水兵には、一種特有の雰囲気があるのです。陸にいると、なんだか自分のいるべきところではないみたいな感じがしてきます。海に出ると、母のふところに抱かれたような気持ちがします。揺られているうちに眠りに落ちるのです。いいものですよ」
博士「艦から海へ落ちた時に、あなたは亡くなられたのです。そして、それ以来ずっとスピリットとして生きてこられたのです。その身体はあなたのものではありません。手をごらんなさい」
スピリット「(霊媒の両手を見て)これは私の手じゃない!(笑いながら)違う、絶対に違う!私の手はごつかったですよ。この手はロープを引っ張ったことのない手だ。変ですねー私がこんな手をしてるとは」(と言って愉快そうに笑う)
博士「ドレスも着ておられますね。髪も長いですね。これが水兵の足ですか」
スピリット「私のではありません。あ、そうだ、分かった!だいぶ前のことですが、船で各地を転々としたことがありました。私は、戦艦にばかり乗っていたわけではありません。父が船長だったものですから、私はいつも海に出ていたのです。ニューヨークからインドあたりをよく航行しました」
博士「帆船で、ですね」
スピリット「そうです。父は、私がまだ子供の頃に、まず帆船から乗り始めました。それから普通の大型船をもち、カルカッタ、ニューヨーク、イギリスの間を往き来していました」
博士「商船だったのですね?」
スピリット「そうです。品物をどっさり積んでました。オーストラリアへ行ったこともあります。綿花と羊毛を商っていました。が、私は大きくなってから、国家の仕事がやりたくなり、それで海軍に入ったのです。そのことを父は、とても不愉快に思ったようです。しかし、お前は生まれながらの海の男なんだな、と言ってくれるようになりました。海の上に産み落とされたようなものです。
 陸の上のことは知りません。読み書きを教えてくれたのは母親で、それが私の教育のすべてでした。家族揃って、いつも海の上で生活していました。母親はよくできた女でした」
博士「そのお母さんは、もう亡くなられましたか」
スピリット「もう生きていません。父親も死んでいます。両方とも数年前に亡くなりました。そうだ、こんなことを話そうとしていたのではなかったっけ・・・」
博士「その手とドレスの話をなさってたんです・・・」
スピリット「なんで私が、女性の手でドレスを着ているのか分かりません。そのことで思い当たることを話そうとしているうちに話がそれてしまいました。
 あれは、たしか私が十九か二十歳の時で、家族でカルカッタにいました。その町で、ある時セオソフィーの集会があり、ふらっと中に入りました。みんな生まれ変わり(輪廻転生)を信じている人ばかりで、話を聞いていると、つい信じたくなるほどでした。
 このスカートも、その生まれ変わりというやつですかね?さっきあなたは私のことを『死んだ』と言いました。となると、生まれ変わり以外に説明のしようがないでしょう?つまり、私は女に生まれ変わったということです」
博士「それも、ある意味では生まれ変わりと言って良いかも知れませんね。死ぬと肉体を離れて、スピリットになるのです」
スピリット「ブラバツキー女史(注1)の話によると、死者はみんなデバカン(注2)へ行くことになっているのだそうです。ブラバツキーは演説のとても上手な人でした。私は子供だったのですが、子供の頃に頭に入ったものは、なかなか忘れないものですね。父は、そんなものは信じてはいけない、頭がおかしくなるぞ、などと言っていたけど、私は、知らないよりましだよ、いいこと言ってると思うな、救い主の話の方が間違ってるよ、などと、いっぱしのことを言って、我ながらでかくなったような気がしたものです。私は女に生まれ変わって戻ってきたということでしょう。本当は水兵になりたかったのですが・・・」
(注1 セオソフィーの創始者)(注2 死後、次の再生まで滞在する場所のことで、古代インド思想から摂り入れたセオソフィー独自の説)
博士「あなたは今、ほんの一時だけ、女性の身体を借りているのです」
スピリット「ということは、一時だけ女になってるということだ!」(声を出して笑う)
博士「あなたは、スピリットなのです。多分、1912年からスピリットになっておられるはずです。今年は1922年なのです。ということは、あなたが肉体を離れて十年になるということです」
スピリット「私が死んだということが、どうして分かるのですか」
博士「1912年が、あなたが思い出せる最後の年だとおっしゃったでしょう?」
スピリット「それで、そう判断するわけですか。すると、私は、これまでデバカンにいたわけですか。なるほど、たしかに私は生まれ変わったわけですね?」
博士「あなたはやはり、さっきおっしゃった時に亡くなられたのです。以来ずっとスピリットになっているのに、そのことに気づいていらっしゃらないのです」
スピリット「それで何もかも忘れてしまったというわけ?」
博士「とにかく今夜はこのことに気づいて頂く為に、ここへお連れしたのです。ここにいる私達は、心霊現象と憑依現象を研究している者達です。スピリットの中には、地上の人間に取り憑いて異常な行動をさせる者がいるのです。
 あなたは今、私の妻の身体を使って喋っておられます。一時的にお貸ししているのです。私達には、あなたの本当の姿は見えていないのです。喋っておられる声が聞こえているだけです」
スピリット「じゃあ、ほんとに女性の身体に宿っているわけだ。あなた方をからかっていることになる」
博士「私の妻は、身体がスピリットに使い易いように出来上がっているのです。『霊媒』と呼ばれている人間のことを聞いたことがありますか」
スピリット「あります。運勢を占ってもらいに行ったことがあります。霊媒の口を使って喋るのはインディアンばかりでしたよ」
博士「インディアンというのは、『門番』として優れた才能をもっているのです。霊媒にとっては、大切な保護者なのです」
スピリット「私は、何の為にここへ来ているのでしょう?」
博士「事実を悟って頂くためです。あなたは、無意識のうちに、人間に間違ったことをしておられたのです。ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「私も、サンフランシスコにいたことがあるのは確かです。その後、永いこと行っておりません。1894年のことです」
博士「実を言うとあなたは、一人の青年に取り憑いて、両親の知らないうちに家出をさせて、しかも海軍の水兵として入隊させたのです」
スピリット「彼には、そんな勝手なことをする権利はないでしょう」
博士「彼には他にちゃんとした仕事があったのです。それが、どうやら『自分』を失ってしまって、いつの間にか海軍に入隊していたのです。今は、サンフランシスコにいます。これには間違いなく、スピリットが関わっている証拠があるのです。そしてそのスピリットとは、他ならぬあなたであると私は見ているのです」
スピリット「冗談じゃありません。私がそんなことをするわけがありません。ある朝目が覚めたら、どういうわけか陸にいるので、海へ戻りたいと思っただけですよ」
博士「あなたは、死んだあと当てもなく漂っているうちに、霊的影響を受け易いその青年とコンタクトが出来ちゃったのです。そして、その磁気オーラの中に入り込んで、彼がやりたいと思っていないことをやらせてしまったのです。最近、あなたはもう一度海に出たくて、海軍への入隊手続きをしませんでしたか」
スピリット「ある朝、目が覚めて海へ戻りたいと思ったようですが、それから道に迷ったみたいです」
博士「自分で自分が思うようにならないことはありませんでしたか」
スピリット「変な感じはしていました。どこか夢の中にいるみたいでもありました。言っときますが、私は何も悪いことをする考えはありませんでしたよ」
博士「あなたの置かれている立場はよく理解しております。あなたが善良な人間であることも知っております。ですから、私達はあなたを責めているのではないのです」
スピリット「その青年というのは誰ですか」
博士「名前はBーです。十七歳の青年です」
スピリット「入隊の時は二十一歳だと言ってました。そうしないと兵役につけませんから」
博士「身体が大きいので、年齢よりは上に見えるのです。私達のサークルで彼に集中祈念をしたのです。多分、それであなたをここへ引き寄せたのでしょう」
スピリット「誰かに引っ張られるような感じがして、それから海中にいるような感じがしました。思い出しましたーニューヨークでしたが、たしかその辺りを航行していた時のことです。その日はひどい嵐で、海上は氷りついていました。私は何かをしている最中に、風に飛ばされて海中へ落ちたのです。まわりは氷だらけでした。そこから先のことは覚えていません。それにしても、その青年の中へ入り込むといっても、どういう具合にでしょう?」
博士「その青年のオーラの中に入り込んだのです」
スピリット「あれ?母親がやってきました!ずいぶん永いこと会っていません。たしかニューヨークで死んだはずです。永いこと、この私を探したと言ってます。そんこなとは知りませんでした。でも、死んだあと、なぜ私は、母親のところへ行かなかったのでしょうか」
博士「大抵の人は、死後しばらく睡眠状態に入るのです」
スピリット「そうか、私はデバカンにいたのだ!生まれ変わる為にそこで眠っていたのだ!」
博士「さ、そろそろお母さんと一緒に行かなくてはいけません。お母さんが、いいお家へ連れていってくれますよ」
スピリット「父と母のところへまいります」
博士「お父さんは、死後のことはよく理解しておられるのですね?」
スピリット「母が言うには、少し手こずったけど、今は理解しているそうです。はじめ父は『救い主』に会いたかったそうです。私はあんな話は信じていませんでした。私にはセオソフィーが一番理にかなっているように思えます。血てもって罪をあがなうなどということは説きません。一人の人間が他の人間の為に殺されるなどという考えは信じられませんもの。もし私が間違ったことをすれば、私自身がその戒めを受けるべきではないでしょうか。神は愛なのであり、その神が、他を救う為に一人の人間に死んでもらうことを望むはずはありません。まったく馬鹿げた話です。教会の人は、ユダヤ人を嫌いますが、イエスはユダヤ人だったのですけどねえ」
博士「さ、そろそろお父さんとお母さんについて行かないとー」
スピリット「今、私は大勢の人達の中にいます。とても気持ちがいいです。いい夜でしたーこうして素晴らしい人達と話を交わし、しばし楽しい時を過ごすことが出来ました。あなたは、私達の姿は見えないとおっしゃるけど、今ここに大勢の人達が集まってますよ。
 母が、もう行かなくては、と言ってます。皆さんに別れを告げなくてはなりません(と言って立ち上がろうとするが、立てない)。あれ、私の脚はどうしたのでしょう?立てませんが・・・」
博士「私の妻の上半身だけを使っているからですよ」
スピリット「では、私は半分だけ男で、半分は女ってわけだ!(愉快そうに笑う)。ますますまずいな!さて、母と一緒に行かなくては」
博士「心の中で思う練習をしなくてはいけませんね」
スピリット「『心の中で思う』ですって!私が今までものを考えたことがないみたいですね。(と言ってから笑い出して)これは失礼。でも、変なことを言われても、すぐに冗談のように思えるようになりました」
博士「別に失礼じゃありません。これからは『心の中で念じる』だけでそこへ行けるようになるのです」
スピリット「脚で歩くのではなくて、ですか。もう脚は不要になるわけですか」
博士「あ母さんと一緒になった、と心に念じるのです。すると、お母さんのところへ行ってます」
スピリット「母と一緒になったつもりになるーすると母のところへ行く?ではまいります。でも、皆さん方は愉快な人ばかりで、いつかもう一度ここへまいりたいですね。いいでしょ?そうそう、例の青年には、もしも私が本当に迷惑をかけていたのなら、申し訳なく思っていることを伝えて頂けますか」
博士「今度はその青年の為にいいことをしてあげては?出来ますよ」
スピリット「いいことをしてあげる?どうやってですか」
博士「家に帰りたい気持ちにさせるのです。その要領はお母さんが教えてくれますよ」
スピリット「母が、あなたが私を見つけてくださったお礼を言いなさい、と言ってます。でも、その母が見つけた私が女性の身体の中にいるなんて!でも、事実そうなんだから仕方ないですね。では、まいります。さようなら」

 その翌日からC・Bの態度が一変した。すぐに両親に手紙を書き送り、家に帰って仕事を続けたいから、除隊できるように取り計らってほしいと依頼した。さらに付け加えて、なぜ海軍なんかに入隊したのか、自分でも分からないーよほどボケッとしていたみたいです、と述べてあった。
 除隊には少し手間取ったが無事自宅に帰り、完全に元の本人に戻ったのだった。


慢性病の原因となっているスピリット


●除霊で背骨痛から解放された女性
 憑依が原因となっている慢性的病弱の特異なタイプのひとつに、背骨の痛みに何年も苦しんでいるG夫人の例がある。どの医者に診てもらっても一向に良くならなかった。
 我々のもとを尋ねて来られて何度か治療を施すうちに、背骨と首の骨を損傷して死んだスピリットが除霊された霊媒に乗り移った。
 霊団の説明によると、そのスピリットはG夫人がまだ子供の頃にオーラに紛れ込み、神経系統に絡まってしまい、死んだ時の損傷がそのまま続いていると思う想念が、G夫人にも移っていたのだという。
 除霊後、G夫人は痛みからすっかり解放されている。


 1923年7月4日
 スピリット=ジェームズ・ホクセン
 患者=G夫人


 霊媒に乗り移った時の様子は麻痺状態にあるような感じで、頭が肩の方へ垂れていた。最初のうち話すことが出来ず、首のところを指差しながら、とても痛むかのようにうめき声をあげていた。
 招霊会に同席していたG夫妻は、真剣な表情で見守っている。
博士「苦しんでいた時の癖はお止めなさい。痛みを忘れるのです。(そう言ってから霊媒の手先と腕を動かしてみせて)ほら、腕は固くないでしょう?首と骨をまっすぐ伸ばしてごらんなさい。もう麻痺してませんよ。
 いいですか、あなたは肉体を失ったのです。もうスピリットになっておられて、地上をうろつきまわり、人様に迷惑をかけていらっしゃるのです。お名前をおっしゃって頂けませんか」
 スピリット「(G夫人を見つけて)ああ、いた!」(と言って両手を差し出してG夫人のところへ行こうとする)
G夫人「だめ、私のところへ戻ってはだめ!来ないで!」
スピリット「ああ!」(と泣きながら、G夫人のところへ行こうとする)
博士「これ以上の身勝手は許されません。助けに来てくださってる高級霊の方の言うことを聞かないといけません。楽になるにはその病気のことを忘れるしかありません。うめいたり泣いたりしても救われません」
G夫人「この方はお医者さんです。治してくださいますよ」
博士「さあ、話してごらんなさい」
スピリット「もう、あの火はごめんです」
博士「いつまでもそんな状態だと、またお見舞いしますよ」
スピリット「もういいです。(もがきながら)ああ、あの火はもういい!」
博士「よく聞きなさい。だいぶ前に何かが起きたはずなのですが、何だったのか、覚えていませんか」
G夫人「さ、先生に答えて」
博士「現在の本当の状態を理解することです。あなたは多分、かなり前に死んだのです」
スピリット「ああ、背中が!背中が!」
博士「背中がどうしたのですか」
スピリット「砕けたのです」
博士「どうして?」
スピリット「馬から落ちて」
博士「どこにお住まいでしたか」
スピリット「思い出せません。死んだようにも思えたことがありますが、今は死んでる気はしません。落馬して背骨と頭と首がバラバラになってしまって・・・。頭が背骨から外れてしまいそうなのです」
(G夫人は、年中そういう感じがすると訴えていた)
博士「落馬したのは、いつのことですか」
スピリット「分かりません。ここのところを打ったのです」(と言って首の左側に手をもっていく)
博士「そのことを忘れるのです。そんな感じを持ち続ける必要は、もうないのです。今あなたが使っている身体は、健康体です。あなたの姿が私達には見えていないことは、ご存知ですか」
スピリット「あの火はもう結構です。首にひどくこたえました」
博士「あなたに出て頂く為に必要だったのです。なぜ、あのご婦人につきまとうのですか」
スピリット「首が、首が、そして頭が!痛くて我慢できません」
博士「その苦しみは、どれくらい続いているのですか」
スピリット「もう、何年もーずいぶん昔からです」
G夫人「落馬したのは、大人になってからですか、それとも、子供の時でしたか」
スピリット「ずいぶん前に痛めたのですが、まだ痛みます」
G夫人「どこでの話ですか。カリフォルニアですか」
スピリット「いえ、もっともっと遠いところです。でも、地名が出てきません」
博士「ずっとさかのぼってごらんなさい。記憶が戻りますよ」
G夫人「イリノイ州?それともアイオワ州?」
スピリット「今、目を覚ましたばかりですので、少し待ってくださらないと。首がひどく痛みます。それに頭も。首が折れたのです。頭が背骨から外れてしまって・・・」
G夫人「あなたには、もう、物質でできた頭はないのですよ」
スピリット「だったらなぜ、あの火が頭のてっぺんに来るんですか!」
G夫人「あれで、あなたは、救われるのです」
スピリット「火ですよ!火ですよ!」
G夫人「首は少しも痛くはないはずですよ」
スピリット「痛むんです、それが!」
博士「いえ、痛むはずはありません」
スピリット「私は麻痺してしまったのです。脊髄をやられたのです。動けないのです。ああ、首が動かない。折れてしまった!」
博士「折れた首は、もう墓に埋められましたと言ってるのが分かりませんか。あなたには、もう肉体はないのです。その身体は、本物の肉体ですよ。ですが、それは、いつまでもお貸しするわけにはいかないのです」
スピリット「あなたは、私の身体がどれほど痛いかが分かってないのです」
博士「あなたが、そう思い込んでいるから痛むのです。墓に埋められたものがなぜ痛むのですか」
スピリット「墓に埋められているというのは、どうして分かるのですか」
博士「それはあなたの身体ではないからです」
スピリット「私の身体が墓に埋められているという証拠でもあるのですか」
博士「あなたというご本人がここにいらっしゃるということが、何よりの証拠です。あなたが今喋っている身体は、あなたのものではないのです」
スピリット「どうして、そんなことが言えるのですか」
博士「あなたには、理解しようという気持ちが欠けています。独りよがりなのです。本当は事実に気づいていますね?」
スピリット「教会にもよく通いましたし、イエス・キリストのこともよく知っています」
G夫人「どういう教会でしたか」
スピリット「メノー派教会です」(G夫人はメノー派教徒として育てられた)
G夫人「どこにありましたか」
スピリット「カンザスです。昔の話ですけどね」(G夫人は何年か、カンザスに住んでいた)
G夫人「何という町ですか」
スピリット「Nー」
G夫人「あなたのお名前は?」
スピリット「忘れてしまいました。首が痛みます」
G氏「町に住んでたのですか」
スピリット「いえ、農業地帯です」
G氏「お名前は?」
スピリット「あったのでしょうが、しばらく呼ばれたことがないので・・・」
G氏「馬から落ちた時の様子は?」
スピリット「丘を登って行く途中で、兎が飛び出して来て、それに驚いた馬が急に走り出したのです。手綱をしっかり握っていなかったものですから」
G氏「乗馬は、あまり得意でなかったのですね?」
スピリット「鞍をつけてなかったのです。しがみつこうとしてもー」
G氏「乗馬用じゃなかったようですね」
スピリット「私は雇用人でしたから」
G氏「年齢はいくつでしたか」
スピリット「十六か七だったと思います」
G夫人「お母さんは、あなたのことを何と呼んでいましたか」
スピリット「知りません」
博士「メイベルと呼んでたんじゃないですか」
スピリット「男の子をメイベルなんて呼びませんよ。肩と背骨が折れてるんです。首も何年もの間ずっと折れたままです」
博士「肉体はもうなくしたということを、しっかりと理解しないといけません。名前は何とおっしゃいましたか」
スピリット「ジェームズです」
博士「ただジェームズだけだったのですか。(手を指差して)これ、あなたの手ですか」
スピリット「違います。指輪なんかしたことはありません」
博士「その手は、一時的に使っておられるだけです。あなたのものではありません。私の妻のものなのです」
スピリット「自分の手が小さくなったように思ってました。そうそう、名前はジェームズ・ホクセンでした」
博士「あなたは、落馬した際に亡くなられたのですよ」
スピリット「頭が落ちてきそうだ!」
博士「落ちたら拾ってあげますよ。あなたはスピリットになっているのに、何も知らずにあのご婦人に迷惑をかけていたのです」
スピリット「スピリットって何ですか」
博士「それをこれからお話しようと思っていたのですーあなたは・・・ええっとー」
スピリット「ジェームズです」
博士「私の目には妻の身体しか見えてないものですから・・・お疑いなら、ここにいる人達のどの方でもいいですから、聞いてみてくてださい」
スピリット「頼るのなら、あなたの奥さんより他にいます」
博士「誰ですか」
スピリット「(G夫人の方を指差して)あの方のところへ戻りたい。あなたがいい」
G夫人「私のところへ戻ってきてはいけません。霊界へ行くのです」
スピリット「それは、どこにあるのですか」
博士「地球を取り巻いている、目に見えない世界です」
スピリット「(気取った言い方で)イエス・キリストに会いたいものですねえ」
博士「なんですか、そのものの言い方は」
スピリット「いけませんか。それより、首を治してくださいよ」
博士「今、あなたが置かれている実情を素直に理解すれば治るのです。あなたはスピリットになっていることを知らずに、一人の女性に迷惑をかけてきたのです。それで『火』を使ってその方の身体から追い出して、今、私の妻の身体を使って話をさせてあげているのです。あなた自身には、もう、肉体はないのです。今、あなたがいるスピリットの世界についての正しい知識を身につけないといけません」
G氏「私の名前をご存知ですか。お知り合いにGーという名前の人はいませんでしたか」
スピリット「いましたが、遠いところに住んでおりました」
G氏「Kーという名前の人は?」(G夫人の結婚前の名)
スピリット「別の町にいました」
G氏「落馬したところは、あなたの生まれ故郷ですか」
スピリット「私が生まれたのは、ずっと田舎です」
G氏「今年は何年だと思いますか」
スピリット「知りません」
博士「大統領の名前は何と言いますか」
スピリット「政治のことは新聞をあまり読まなかったので知りません。農場で雑用ばかりやっておりました。それも、ずいぶん昔のことです。このところ『火』をかけられなくなりました」
 博士「『火』を浴びせたのは、この私です。あれは電気なのです」
スピリット「いや、火でした。電気じゃない。電気だったらビリビリきますよ」
博士「それがあなたには『火』を浴びたように感じられたのです」
スピリット「何も悪いことをしてないのに、なんであんなひどい目に遭わせるのですか!」
博士「あなたは、あのご婦人を永いこと苦しめていたのです。あなたのせいで、自分の思うような生活が出来なかったのです。それで私が『火』を浴びせて、あの人の身体から出て頂いたのです。あたりをご覧になってみてください。どなたかの姿が見えるはずですよ」
スピリット「いっぱい来ています。(急に興奮して泣き出しながら)母さん!ああ、母さん!」
博士「あなたのことを心配して、助けに来られたのですよ」
スピリット「ああ、母さん、なぜあんなに早く死んじゃったの?僕はまだ子供だったのに・・・あれから何もかもムチャクチャになって、僕は一人で生活費を稼がないといけなくなったんだ」
博士「お母さんは、何かおっしゃってますか」
スピリット「『ジミー、一体どこへ行ってたの?』と言ってます。ずいぶん探したんだけど、見つからなかったのだそうです」
博士「それは、あなたがG夫人の身体の中に入っていたからですよ。それがあの方に大変な迷惑をかけていたのです。さ、お母さんとお行きなさい」
スピリット「母と会うのは久しぶりです」
博士「今年は1923年ですよ」
スピリット「まさか!」
博士「1923年7月4日です。そして、ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」
スピリット「1893年ですよ、絶対に!」
博士「それは三十年前の話です」
スピリット「でも、事故に遭ったのは1896年です。それから何年も不自由な身体で過ごしましたけど、記憶にあるのは1896年です」
博士「二十七年前の話ですね」
スピリット「その永い年月をどうやって過ごしてきたのでしょう?私は眠り続けていたのでしょうか」
博士「眠っておられた時期もありますが、大半は地上の人間に迷惑をかけていたわけです」
スピリット「ずいぶん永い間、何かの中に閉じ込められていた感じです(G夫人のオーラ)。ある時期(落馬して死亡した直後)眠りに入っていくような感じがして、死ぬのかなと思っていましたところ、どこかに閉じ込められてから少し様子が変わりました。ドレスを着ていて、なんとなく女になったみたいに感じていましたが、何しろ首をやられていて、その首が今にも落ちそうな気がして・・・」
博士「G夫人のオーラの中に入り込んでいたのです。肉体はなくなったのに、首が折れたという観念を抱き続けていただけです。肉体は墓に埋められたのです」
スピリット「でも、今でも首が痛みます」
博士「それは、首が折れたという観念が残っているからです。『人は心に思ったとおりになる』というではありませんか。折れた首のことが心から離れないから、痛むような気がするのです。その身体は首は折れていませんよ。私の妻の身体ですから」
スピリット「あなたの奥さんの?今、どこにおられるのですか」
博士「眠っています。その足をご覧なさい。あなたの足だと思いますか」
スピリット「女性の足ですね」
博士「一時だけお貸ししているのです。さ、お母さんと一緒に行きなさい」
スピリット「母さん、連れてってくれますか」
博士「何とおっしゃってますか」
スピリット「連れてってあげるけど、その前に、あのご婦人に許しを請わないといけないと言ってます。でも、どうやってこの身体から出るのだろう?永いこと閉じ込められていて、体力も衰えちゃって・・・ねえ、母さん、来て手を貸してちょうだいよ。これからは言うことを聞きますから」
博士「そのうち何もかも事情がはっきりしますよ」
スピリット「死んでいくみたいな感じです」
博士「一時的な感覚です。身体から離れる前には死んでいくみたいな感じがしますが、それは、その身体のコントロールを失いつつある証拠です。死んだりなんかしません。死のうにも死ねないのです。死んでしまった人は一人もいません。スピリットは永遠に死ねないのです」
スピリット「健康な身体になれるのでしょうか」
博士「なれますとも。首が折れたことや痛みのことは忘れることです」
スピリット「では、母とまいります。奥さん、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
G夫人「もういいのですよ、ジェームズ。過ぎたことは忘れてください」
博士「高級霊の方達が色々と教えてくださいますから、素直に聞くのですよ。さ、お母さんとマーシーバンドの方達と一緒になったつもりになってごらんなさい」
スピリット「さようなら」


孤児のまま他界したスピリット


孤児のまま他界したスピリット

●家族を知らないまま他界したケース
 地上時代に家族というものを知らないまま他界したスピリットがよく出現しているが、知識欲が旺盛なせいか、新しい生活環境に馴染むのが早いようである。


 1921年5月25日
 スピリット=ミニー・オン・ザ・ステップ(女の子)


博士「どこから来たんですか?」
スピリット「知りません」
博士「今まで、どこで何をしてたんですか?」
スピリット「それも分かりません」
博士「分からないでは済まないでしょ?自分が今どこにいるのか、どこから来たのかも分からないの?」
スピリット「分かりません」
博士「死んで、どれくらいになるの?」
スピリット「死んで?知りません、なんにも・・・」
博士「誰か『あなたはもう死んだのよ』と言った人はいませんか?」
スピリット「いません。あたし、あっちこっちを歩き回って、人に話しかけてるの」
博士「誰にですか?」
スピリット「手当たりしだい誰にでも。なのに、どういうわけか、誰もあたしの方を向いてくれないの。時々大勢の人の中に入り込んで、今度こそ全部の人をあたしのものにしたいと思ったり、壇の上に上がって『一体このあたしはどうなってるの?』って、大声で聞いてみるんだけど、みんな知らん顔をしているの。あたしだって一人前のつもりなのに・・・。だあれも相手にしてくれないの」
博士「そうなる前のことを思い出せる?」
スピリット「そうなる前?一人前だったわ。今は多分『除け者』なのね」
博士「『一人前だった』頃は、どこに住んでたの?」
スピリット「ずっと同じ場所よ。そのうち退屈しちゃって、横になって眠り続けたの。眠った後また出かけるんだけど、同じ場所をぐるぐる歩き回るだけで、少しも遠くへ行かないの」
博士「誰かついて来なかった?」
スピリット「目に入るのは、全部あたしを除け者にしている人達ばっかりよ。誰もあたしの方を向いてくれないし、心配もしてくれない。時々惨めな気持ちになったけど、また平気になるの」
博士「お母さんは?」
スピリット「知らないわ。お腹が空くことがあるけど、たまらなくなったら、誰でもいいからおねだりするの。貰えることもあるし、貰えないこともある。どこかの家の台所に上手く入れたら、食べるものを見つけて思い切り食べるの。食べ終わったら、また出歩くの」
博士「どこを?」
スピリット「どこでも」
博士「食べるものが手に入った時は、誰か他の人間になったみたいな感じがしない?」
スピリット「お腹が空く、だから何か食べるものを探すの」
博士「どこへ探しに行くの?」
スピリット「それが、とっても変なの。代金はいつも誰か他の人が払ってくれて、あたしは一円も払わない・・・本当に変なの。何を食べても代金を払ったことがありません。時々、あたしの欲しいものが出ないことがあるけど、仕方なしに頂くの。時々、ひどいものを食べさせられて気分が悪くなることがあります。出されたものが気に入らなくて、しかめっ面をすることもあります。思い切って食べる時と、ほんの少ししか食べないことがあります。それに、男になったり女になったりします(完全に憑依した時のこと)。
 自分がどうなってるのか、わけが分からなくなることがあります。どうしてこんなに変になっちゃったんでしょう?自分にも分かりません。人から話しかけてもらいたくて、歩き回って手当たり次第に話しかけるんだけど、誰も相手にしてくれなくて、ただ自分の声が聞こえるだけなの。たまには話し合ってる人の中に入り込んで、しゃがみ込んで、そして・・・・ああ、分からない!半分だけが自分になったみたいー誰か他の人になったみたいになります」
博士「年齢はいくつ?」
スピリット「年齢?知りません」
博士「自分の年齢が分からないの?」
スピリット「この前の誕生日の時は、十九歳だった」
博士「お父さんやお母さん、あるいはお姉さんはいるの?」
スピリット「いません」
博士「両親はどこに住んでたの?」
スピリット「父さんも母さんも知りません」
博士「あなた自身はどこに住んでたの?」
スピリット「父さんや母さんが今でも生きてるのかどうか、どこにいるのか、あたしは何も知りません。一度も会ったことがないの」
博士「どこかの施設にいたわけね?」
スピリット「あたしはホームで育ったの。大勢のお友達と一緒に」
博士「仲良しがたくさんいたのね?」
スピリット「いっぱい、いました」
博士「そこはどこだったの?」
スピリット「よく知りません。何か変なの。どうなってるんでしょう?とても変なの」
博士「きっとそうだろうね」
スピリット「人から話しかけられたのは、今日が初めてなの。あの美しい歌(交霊会を始める前にみんなで歌う歌)を聞いていると、知らない間にここに来ていました。あたしは浜辺の向こう岸へ行きたいと思って、どこだろうと思って見つめていたところでした」
博士「私達がそこへ連れてってあげますよ」
スピリット「気がついたら話せるようになってたの(霊媒に乗り移らされた)。これまでずいぶん永いこと、一人もあたしに話しかけてくれた人はいなかったわーこれだけは本当よ。あたしから話しかけると、いつも他の誰かが返事をするの。あたしは何も返事をすることがなくなったみたいだった。だって何を喋っても、誰も聞いてくれないんだもの。本当に変なの。あんな変なことってないわ。みんながあんまり意地悪だから、働いていた家から逃げ出しちゃったの」
博士「みんながどんなことをしたの?ムチでぶったりしたの?」
スピリット「そんなんじゃない。ある家で家事の手伝いをしてたの。お腹が空いたからです。もちろん期待されたほど上手に仕事は出来なかったけど、そこへ女の人がやってきて、あたしをホームから連れ出すと言ったの。あたしはそのままホームにいたかったのに・・・・。だって、ホームでは差別されないもの。もちろん辛いことはあるけど、一日中、叱られ通しより、マシよ。嫌なことも色々あるけど、楽しいこともあったわ。
 あたしを連れ出した女の人が最初に言ったのは、朝から晩まで聖書を読みなさいということでした。あたしはうんざりしちゃって、バイブルが大嫌いになっちゃった。お祈りもしなくちゃならないでしょ?膝が痛くなって歩けないほどだったわ。
 だって一日中ひざまずいて、バイブルを読むこととお祈りの繰り返しでしょ。動く時も立ち上がっちゃいけないの。膝で歩きなさいと言われたわ。それはみんな、あたしを救う為にさせてるんだって言ってたわ。それまでのあたしは本当の『良い子』ではなかったんですって。言う通りにしないと、とっても熱いところ(地獄)へ連れて行かれるんですって。ホームでもお祈りはしたけど、保母さんはとってもいい人だったわ。よくお祈りをして、神様を信じてました。
 その女の人に連れ出された時は十四歳でした。悲しかったわ。何を頂くにも、働いて働いて・・・・すると、あたしが言われた通りにしてないと言って、叱られ通しなの。つまり、お祈りとバイブルを読むことね。そんなことをしても何にもならないから、しなかったの。だって、ひざまずかないといけないでしょ。膝が痛くてたまらないから、その人の言うことが耳に入らないの。たまらなくなって転ぶと、もう大変なの。あたしの髪を引っ張って起き上がらせるの。そのくせ自分は膝にクッションを置いてるのよ。それなら何時間でも平気だわ。あたしのことをいつも罪深い女だって言ってた。すぐに疲れるからだって。
 長い時間ひざまずいていられなかったら、罪深い人間になるのかしら?あたしはよく分からないけど、そんなことをいつも真剣に考えたわーこれ、内緒だけど、こんなにお祈りを聞かされたら、神様の方が退屈するんじゃないかと思ったの(小さな声で言う)。疲れてウトウトすると、また髪の毛を引っ張って、ほっぺを叩くの。あの人は神様にお祈りをするくせに、していることは悪いことばっかりよ。言う通りにしてないと、悪魔に連れて行かれると言ってたけど、あたしは時々、この人の方が悪魔だと、本当にそう思ったわ。
 ひざまずいたままウトウトすると、すぐあたしの側にやってきて『神様、この悩みから私を救ってください。ああ、神様、私は心からあなたを愛しております』なんて言うの。いつも真っ先に自分のことをお祈りして、それからお嬢さん、お母さん、弟、お父さん、そしてお友達の順にお祈りして、最後に『ミニーのために』って、あたしのことを祈ってくれたわ。
 誰もあたしの本当の名前を知らないの。あたしは、お父さんの名前もお母さんの名前も知りません。みんなが言うには、あたしは上がり段の上(オン・ザ・ステップ)に置かれてたんだって。それであたしのことをミニー・オン・ザ・ステップなんて呼んだのね。そんな呼び方をされるのは、とっても嫌だったわ。上がり段の上で見つけたんですって。そして『ミニー』という呼び名を付けたの」
博士「あのね、あなたはもう肉体を失って、今はスピリットになっているのだよ」
スピリット「それ、何の話?あたしは女の子よ」
博士「今まであなたは、スピリットになってウロウロしてたんですよ」
スピリット「どういうこと?」
博士「あなたには、もう肉体はなくなったということです」
スピリット「死んだわけ?あたしは、もうずいぶん永いこと皿洗いをしてないし、髪の毛を引っ張られたこともないわ。あの人があんまり意地悪だから、あたし、あの家から逃げ出したの。遠くへ遠くへと逃げて、食べるものがないものだから、お腹がペコペコになっちゃった。お金もないし・・・」
博士「それからどうなったの?」
スピリット「どんどん遠くへ行くうちに道に迷ってしまい、お腹が空いてるものだから寝てしまいました。目が覚めるとあたりは真っ暗で、森の中にいました。ふと、あの人に見つかったら大変と思って、森の中を走ったり歩いたりしながら、どんどん進みました。それから、どこかで食べ物を貰わなくちゃと思ったけど、最初に見つけた家へは入りませんでした。お腹がペコペコのまま昼も夜も歩き続けたけど、大きな樹木と森以外は何もありませんでした。そうしているうちに寝てしまい、それきりその日のことは覚えていません(ここで死亡)。
 目が覚めると、身体が楽になっていたので、さらに歩き続けて町へ向かいました。ずいぶん歩いて大勢の人達がいるところへやってきたけど、誰もあたしの方へ目を向けてくれなかった。お腹はペコペコでした。
 それで、女の人がレストランに入るのを見つけて、その後をつけて入りました。一緒にごちそうを食べようとしたんだけど、その人が全部食べちゃって、あたしはホンのちょっぴりしか貰えなかった。その人はずっとあたしには知らん顔をしていました。レストランを出た後、また歩き続けているうちに、また誰かがレストランに入るのを見かけました。今度は何人かの人と一緒でした。一緒に頂いたけど、代金はみんなその人達が払ってくれました」
博士「『あたし』は、一体どうなったんだと思う?」
スピリット「分かりません」
博士「あなたは、誰かの肉体に取り憑いてたんですよ。スピリットとなって地上の誰かにつきまとっていて、その人の肉体を通して空腹を満たそうとしたんです。多分、あなたは森の中で肉体から離れたのです」
スピリット「あたし、とっても喉が渇いてました。食べるものはなんとか口に出来たけど、食べる度に喉が渇いていって、もう、バケツ一杯でも飲めそうだったわ」
博士「肉体を捨てたことに気づかずに、肉体の感覚だけが精神に残ってたのね」
スピリット「そうかしら?死んだのはいつのこと?あたしのこと、よく知ってるんでしょ?ここへはどうやって来たのかしら?」
博士「私の目には、あなたの姿は見えてないのですよ」
スピリット「あたしの両親も見えないのですか?」
博士「見えません」
スピリット「あたしは?」
博士「見えません」
スピリット「あたし、どうなっちゃったのかしら?」
博士「あなたのことは、肉眼では見えないのです」
スピリット「あたしの喋ってる声は聞こえるのでしょ?」
博士「それは聞こえます」
スピリット「声は聞こえても姿は見えないんですか」
博士「あなたは今、自分の口で喋っているのではないのです」
スピリット「ほんと?」
博士「手を見てご覧なさい。それ、あなたの手ですか」
スピリット「いいえ」
博士「ドレスはどう?」
スピリット「こんなの、一度も着たことがありません」
博士「あなたは他の人の身体を使っているのです」
スピリット「どこかの団体から頂いたんだわ。指輪もしてる!」
博士「その指輪はあなたのものではありません。手もあなたの手ではありあません」
スピリット「また眠くなってきちゃった」
博士「その身体を使うことを特別に許されたのです」
スピリット「あら!あそこを見て!」
博士「何が見えるのですか」
スピリット「よく分からないけど、女の人がいます。泣いてます」(母親)
博士「誰なのか、尋ねてごらんなさい」
スピリット「(驚いた様子で)あら、まあ、ウソ!」
博士「何て言ってますか」
スピリット「あたしは、その方の子供なんですって。あたしを置き去りにしたことを後悔してるんだと思うわ。でも、ホントにあたしのお母さんかしら?『まあ、私の愛しい子!』なんて言ってるわ。今日まで必死であたしを探し続けてきたんだけど、手がかりがなくてどうしようもなかったんですって」
博士「今はもう、お二人ともスピリットになってるんです。高級界の素晴らしいスピリットがお迎えに来てくださってますよ」
スピリット「その方は真面目に生きていたのに、男に騙されたと言ってます。教会に通っているうちに、男が結婚しようと言い寄ってきて、お腹に子供が出来ると、どこかへ姿を消しちゃったんですって。あたしを産んでから身体を壊して、あたしをホームの上り段に置き去りにし、それから不幸続きで、とうとう病気で死んじゃったんですって」
博士「お母さんに言っておあげなさい。お母さんもあなたと同じように、今はもうスピリットになったのよって。素晴らしいスピリットが、あなた達を救いに来てくださってますよ」
スピリット「母さん!おいでよ!許してあげるわ、母さん。もう泣かないで。これまでのあたしには母親がいなかったけど、今日からは母さんがいるわ。あたしをずいぶん探したって言ってるわ。それで誰かが、あたし達二人をここで会わせてくれたんですって。『きっと見つかりますよ』って言われてやってきたと言ってます。ほんとに見つかったのね。嬉し泣きしてもいいかしら?泣きたくなっちゃった。だって、あたしにも母さんが出来たんですもの」
博士「霊界でお二人の家がもてますよ」
スピリット「あたしの名前はグラディスというんですって。母さんの名前はクララ・ワッツマンですって」
博士「どこに住んでたんだろう?」
スピリット「セント・ルイスですって」
博士「霊界へ案内してくれる方が、ここへ来てくれてますよ」
スピリット「あれは何?まあ、インディアンの少女がやってくるわ。素敵な女の子よ」
博士「そのスピリットが、お二人に色々と素敵なことを教えてくれますよ」
スピリット「あら、母さん、そんな年寄りみたいな姿は嫌だわ!さっきは若かったのに」
博士「すぐに若くなりますよ。悲しんでる心の状態がそんな姿に見せているのです」
スピリット「あのインディアンの少女ーシルバー・スターと言うんだけどー母さんに手を当てがって『若いと思いなさい。そうすれば若くなります』と教えています。あっ、本当に若くなったわ!若くなったわ!じゃあ、あたし、母さんと一緒に行きます。忘れないで、私の名前はグラディスよ。ミニー・オン・ザ・ステップより素敵だわ。あたし達は、天国の神様のところへ行くのかしら?」
博士「霊界へ行くのです。そこへ行ったら、もっともっと素晴らしいことを学びますよ」
スピリット「シルバー・スターが『神はスピリットです。神は愛です。神はどこにでもいらっしゃいます』と言ってます。そして、博士に感謝しなくてはいけないって。ドクター・何でしたっけ?」
博士「ドクター・ウィックランドです。今、あなたは、私の妻の身体を使ってるんですよ」
スピリット「母さんは今は若くて奇麗です。若いと思ったら若くなるんですって。シルバー・スターがそう言ってます。いつかまた、ここへ戻ってきていいかしら?」
博士「大歓迎ですよ」
スピリット「あたしはもうミニー・オン・ザ・ステップじゃないことよ。グラディス・ワッツマンと覚えてね。皆さん、有り難う。これであたしも一人前になれたわ。ちゃんと名前がついて・・・。やっぱりいいな。あたしの『おじさま』になってくれないかしら?」
博士「そうだね」
スピリット「あたしのわがままを聞いてくださって、有り難う。さようなら」


霊界の浮浪者・アンナ


●霊界の浮浪者・アンナ
 このミニー・オン・ザ・ステップは、その後、自分と同じような境遇の『霊界の浮浪者』のことに熱心な関心を寄せるようになり、大勢のスピリットをこのサークルへ連れてくるようになった。次の例はその最初のスピリットで、ほぼ一ヶ月半後のことである。

 1921年7月13日
 スピリット=アンナ・メアリ


博士「こんばんは。ここにいる人の中に知ってる人がいますか」
スピリット「ここに来たら食べるものが貰えるって、ある人が教えてくれたの」
博士「あなたに必要なのは霊的な栄養です」
スピリット「それ、食べられるの?」
博士「食べられないけど、あなたの精神に必要なのです」
スピリット「精神の為か何か知らないけど、あたしが今欲しいのは、お腹の為のものです。もう永いこと何も食べてません。でも、変ね。あなたが話しかけてくれた時から、お腹が空かなくなっちゃった。さっきまですごく空いてたのに、今は空いていない」
博士「さっきまで、何をしてたの?」
スピリット「別に何も・・・何もすることがなくて、うんざりしてるの。することがないのは退屈よ。何かしたいわ。何もすることがないとイライラしちゃう。どうしていいのか分からない。あっちこっちと、どこへでも行きたいと思ったらすぐに行けるんだけど、着いたらまた、どこか他のところへ行きたくなるの。何かすることがないかと思い続けて、もう嫌になっちゃった。いつもよその方が良さそうに思えて、行ってみたくなるんだけど・・・」
博士「名前は何ていうの?」
スピリット「みんなメアリと呼んでいるけど、本当はアンナ・メアリよ。メアリって呼ぶ人もいるし、アンナって呼ぶ人もいる」
博士「お父さんとお母さんは、どこに住んでたの?」
スピリット「父さんも母さんも、知りません」
博士「年齢はいくつ?」
スピリット「知りません」
博士「カリフォルニアに行ったことがある?」
スピリット「あるわけないでしょ、あんな遠いとこ。一度も行ったことがありません。行けるほどのお金もなかったし・・・。あたしのいたところは夏は暑いし、冬は寒かったわ」
博士「ここへはどうやって来たの?」
スピリット「ほんと、ほんと、どうやって来たのかしらね?」
博士「誰かが連れてきてくれたのでしょ?」
スピリット「ミニー・オン・ザ・ステップ」
博士「今、そこに来てるの?」
スピリット「ええ」
博士「同じところに住んでたの?」
スピリット「そう」
博士「ミニーと似た境遇だったの?」
スピリット「あの子は、とてもいい子だったわ。あたしもあそこから逃げ出しちゃったの。世の中が見たかったし、同じところにいるのが嫌で・・・。
子供がたくさんいるホームにいて、そこにミニーもいました。そこがあたし達の家だったの。すごく働かされたわー磨いたり水を運んだり。あんまり疲れるから逃げ出しちゃった。みんな、あたしのことを馬鹿だ馬鹿だって言うし・・・。あたしは少しも馬鹿だなんて思ってないわ」
博士「あなたをここへ連れて来たのはミニーなのか、ちょっと聞いてみてちょうだい」
スピリット「そうだと言ってます。あたしを探してくれたんですって。今はちゃんと自分の家をもってると言ってます。
 (驚いた目つきで)うわぁ、すごい!あんな素敵な家、見たことないわ!見て、あの家!ミニーの家よ。奇麗!自分の家だって言ってるわ。驚いちゃったなあ」
博士「どうやって手に入れたのか聞いてみてちょうだい」
スピリット「(ミニーに向かって)どうやって手に入れたの?あなた(博士)や、あなた達(サークルのメンバーを一人一人指差して)のお陰だって。あの家はホームにいたお友達みんなのものなんだって。探し当てた人をみんな、あの家に連れてくるんだそうです。
 あの子、幸せそうだわ。あたしのことなんか思ってくれる人は一人もいなかった。だって、あの子の方があたしよりまだマシだったんだもの。でも、ほんとに素敵な家だわ!」

博士「何が原因で死んだの?」
スピリット「あたし、死んでなんかいないわ。あたしの声が聞こえないの?あら、メアリ・ブルームがいるわ。それにチャーリーも!あたし、チャーリーは嫌いよ。自惚れちゃってさ。あたしをずいぶんいじめたわ。いつも他の男の子と一緒になって、あたしを追っかけまわしたの。あたしのことを馬みたいに思って・・・いつも髪の毛を引っ張ったわ。あたしのことを『クシャクシャあたま』って呼ぶの。我慢できなくなって思い切り怒ると、みんなびっくりして逃げて、今度はあたしを追っかけるの。
 メアリ・ブルームは、いつもあたしと一緒に床磨きをしたのよ。メアリが、もうしなくても良くなった、と言ってる。ミニーの家にいるんだって。妹のエスターも一緒だって。ミニーが言ってるわー素直に言うことを聞いたら面倒をみてあげるって。素敵な家をもらって、仕事もさせてくれるんだって」
博士「お母さんの名前を知ってる?」
スピリット「母さんが奇麗な人だってことは、よく聞いてたわ。美しい家に住んでたことは覚えてるけど、あたしのことは嫌いだったみたいーあたしがお馬鹿さんだから・・・」
博士「あなたのことを恥みたいに思ったのかな?」
スピリット「ちっとも可愛がってくれなかった。とっても奇麗な人だったそうだけど・・・」
博士「ミニーと一緒に行きたい?」
スピリット「ミニーはすっかりレディよ。昔とすっかり変わっちゃったわ。美しくなって」
博士「何か言ってる?」
スピリット「あたしが、もうスピリットの世界にいることを理解しないといけないと言ってます。あら、あの美しい女の人を見て!」
博士「何て言ってますか」
スピリット「霊界の孤児の世話をする施設をもってるんですって。神様についてのお話をなさるそうです。美しい方よ、本当に美しい方!奇麗な金髪!銀に近いかしら?笑顔が太陽みたい。こんなことを言ってますー『私についてらっしゃい。地上では幸せでなかったけど、私と一緒に暮らして幸せになりましょう。同じような身の上の子供を大勢集めて、本当の人生のお話をしてあげます』って」
博士「その方の名前を聞いてみてくれない?」
スピリット「アビー・ジャドソンだそうです。(そのスピリットに向かって)ねえ、あなたはあたしのことを『お馬鹿さん』なんて言わないわね?あたしのお母さんになってくださる?『母さん』と呼んでもいいかしら?あたしは母さんがいなかったの。一度でいいからあたしを抱っこしてくれない?お母さんてどんなものか、感じてみたいの。口づけもしてくださる?ねえ、お願い。お母さんの口づけがどんなものか、あたし知らないの。
 その方が言ってますー『ええ、いいわ、あなたのお母さんになってあげましょうね。面倒を見てあげますよ。美しいスピリットの世界で一緒の家をもちましょうね』って。
 わあ、口づけしてくれたわ!素敵な方よ!ねえ、もっと優しくして!嬉しいわ!あたしも幸せになれたわ。だってお母さんができたんだもの!あたしも、一生懸命良い子になるわ。神様にお祈りしたから、お母さんをくださったんだわ」
博士「さ、これであなたもスピリットの世界へ行くのですよ。その世界では、幸せであることが天国なのです。天国とは心の持ち方一つなのです」
スピリット「もう行かなくてはいけないとおっしゃってます」
博士「その方のことは、私もよく知ってますよ。大勢のスピリットをここへ連れてきてくださってる方です。地上では先生をしておられたのです」
スピリット「とても奇麗な家に住んでいらっしゃるそうです。でも、地上の家とは違って、神様へのお祈りの仕方を教わるところなんですって」
博士「その方の側に行ったつもりになってごらんなさい。すると、その身体から離れますよ」
スピリット「ブルームとミニーが、あなたに感謝しなくてはいけないって、私に言ってます。新しい母さんはあたしのことを恥さらしだと思わないかしら?あたし、字も読めないの。勉強する暇がなかったんですもの。あの大きなホームで、女の人に預けられてから、ずっと働かされ通しだったわ。それで病気になって、咳ばかりしてたの。それでも休ませてくれなかった。どんどん病気が酷くなって、それから先のことは何も覚えていません(死んだ)。
 あたしを救ってくださって、ありがとう。さようなら」