女優の霊


●英国王も愛した人気女優
地上時代は、英国王エドワード七世もファンだったという人気女優のリリアン・Rが、ある日の交霊会でウィックランド夫人に乗り移った。死後のもうろうとした睡眠状態から抜け出られず、それを親戚や知人、友人などが入れ替わり立ち替わり、声をかけて目覚めさせようとしている様子を彷彿させる内容である。


 1922年7月7日
 スピリット=リリアン・R


博士「ようこそおいでくださいました。どちらから来られましたか」
スピリット「ここへ来るように言われてまいりましたが、何が何だか分かりません。自分の状態がとても変で、わけが分かりません。どこにいるのかも分かりません」
博士「今あなたはカリフォルニアのロサンゼルスにいらっしゃるんですよ」
スピリット「まさか!大勢の人からここへ来るように言われたのですが、なぜだか知りません。ここにいらっしゃる皆さんの中に私の知ってる方は見当たりません」
博士「私達が、お役に立てればと思いまして・・・・」
スピリット「何もして頂くことはございません。ただ、頭の中が混乱してまして・・・・」
博士「それは、あなたが今置かれている状態を理解なさっていないからですよ。今、どこにいらっしゃるつもりですか」
スピリット「それは、もちろん私の家ですよ」
博士「州はどちらだったのでしょうか」
スピリット「もちろん大半はニューヨークでしたよ。でも、時にはロンドン、その他の国々も訪れましたけど・・・・」
博士「どなたかお知り合いの方の姿は見えませんか。ここへお連れした方でもいいのですが・・・」
スピリット「おお、痛い!」(手足が痛むような仕草をする)
博士「何か事故にでも遭われましたか。旅行中のことでしょうか。最後に覚えてらっしゃることはどんなことでしょうか」
スピリット「とても病んでおりました。痛みがひどくて・・・」
博士「多分その病気が最後だったのでしょうね。急に良くなったのではないですか」
スピリット「いえ、永い間寝てたような感じがして、それが今なんとなく目が覚めていきつつあるような感じです。何もかも変なのです」
博士「ご自分が置かれている事情が理解できていないからですよ。その痛みは、今はもう感じる必要はないのです。『もう痛くはない!』と自分に言い聞かせてごらんなさい。さっと消えますよ。さ、おっしゃってごらんなさい」
スピリット「ええ、でも、なんだか言いにくくて・・・・。あなたはクリスチャン・サイエンスの方ですね?私も勉強してみましたが、痛みが心の影だなんて、とても信じられません」(クリスチャン・サイエンスは、信念で病気を治すことを説く宗教)
博士「今は地上とは事情が違うのです。まわりにどなたか知った方は見えませんか」
スピリット「見えます。とっくに亡くなったはずの親友の姿が、たくさん見えることがあります。それで、あたしの頭がどうかしてるんだと思うわけです。まわりに集まって、誰かが『目を覚ましなさい!』と言うんですが、はっきり見えないのです。見たいとも思いません」
博士「はっきりとしないのは、理解しようとしないその心構えが邪魔するからですよ。地上で一緒に仕事をしていた頃は、その方達が怖かったのでしょうか」
スピリット「そんなことはありません」
博士「じゃ、なぜ怖がるのですか。お互いに肉体を棄てただけじゃないですか」
スピリット「怖いのです。びくっとするのです。そばに来て欲しくないのです。なぜ、一番の仲良しが来てくれないのでしょうか」
博士「地上時代のお友達から見れば、あなたは死んだ人間なのです。そして、既に死んだお友達から見れば、あなたは死んでいないのです」
スピリット「私は病気になっておりました。でも、死んだという記憶はありません。眠りについたのは知ってますが、そのまま目覚めることが出来なかったという記憶はありません。お友達が何人かやってきて、一緒においでと声をかけてくれました」
博士「なぜ、みんなが『目を覚ましなさい』と言うのか、分かりますか。霊界のお友達にとっては、あなたはまだ居眠りをしている状態だからです」
スピリット「なぜ呼んでくれるのでしょうか」
博士「悟らせてあげようとしているのですよ」
スピリット「あなたはどなたですか。私は存じ上げませんが・・・」
博士「私は、ドクター・ウィックランドと申します。あなたをここへお連れしたのはどなたですか」
スピリット「アンナ・Hがいらっしゃいと言うものですから・・・・」(地上時代の女優仲間)
博士「その方も今のあなたと同じように、ここでお話をしてくださいましたよ」
スピリット「彼女も私のところへ来てくれましたが、あの方はもう死んでしまったはずです」
博士「死んでなんかいません。いいですか、私達には今あなたの姿は見えていないのですよ。あなたの喋っている言葉が聞こえてるだけなのです。そして、あなたも実は、本当の私を見ておられるのではなく、私の身体を見ているだけなのです。精神体は見えないものなのです。その精神体は決して死なないのです」
スピリット「大勢の人がやってきて、しっかり目を覚まして、また一緒に仕事をしましょうよと言ってくれます」
博士「よろしかったら、お名前をおっしゃってください」
スピリット「私をご存知でなかったのですか。私は女優でした。リリアン・Rの名で知られておりました。死んでなんかいません。ウィリアム・ステッドが会いに来てくれました。エドワード七世もおいでになられました。私のファンでしたの。私がなぜこんなところに来たのか分かりません。あなたが私を目覚めさせてくださると、みんなが言ってますけど・・・・」
  ーウィリアム・ステッドは、生前から霊魂説を信じてスピリチュアリズムの普及に貢献し、死後も霊界通信を送ってきている。
博士「ここに集まっている者は、人生の悩み事に関心をもっていて、特に『死者はどうなるのか』という問題と取り組んでいるのです」
スピリット「私も少しは勉強しました。でも、心霊現象はよく分かりませんでした。そんなことを勉強するよりも女優としての仕事の方が忙しくて・・・でも、私なりに信じた生き方をしていました。とても疲れました。眠いです」
博士「病気は何だったのですか」
スピリット「それが、みんな色々と言ってくれるものですから、自分でも分からなくなりました。ここから下がひどく痛みました(膝から下をさする)。しばらく意識を失っていたようです。はっきり思い出せないのです。記憶を失ったようでもあります。昔のことになると、まったく思い出せません。人間が変わってしまったみたいです。将来に何の楽しみもなくなったみたいです。といって、不幸というのではありません。幸福でもありませんけどね・・・」
博士「私が事情を説明してあげましょう。少しも心配なさることはないのですよ」
スピリット「お友達がやってきてくれるのですが、関わり合わないようにしています。『おいでよ』と言ってくれるのですが、『ダメ、ダメ!あたしはまだ死ぬわけにはいかないわ。死にたくないの』と言い返しています」
博士「あなたはもう死んじゃってるんですよ。そのことが分かっていらっしゃらないから、お友達が教えに来てくれてるのに、あなたはそれが理解できない。
 今、ご自分がどこにいるのかご存知ですか。今、あなたが使っておられる身体は、私の妻のものなのです。妻は眠っています。あなたは、ご自分の身体で喋っているのではないのですよ」
スピリット「(既に他界している友達に気づいて)ジョン・J・Aが来ました」
博士「この婦人は、霊媒なのです。私の妻でして、スピリットに身体をお貸しして話をして頂き、事情を理解して頂いております。ジョンもステッド氏もアンナも、あなたに理解させてあげることが出来なかったみたいですね」
スピリット「あの方達が怖かったのです」
博士「ここはあなたのような状況に置かれている方に実情を知って頂くところです。あなたはスピリットになっておられて、今、他人の身体を使っておられるのです。私達は自分の身体をもっていますから、こうしてあなたと話が出来るわけです。あなたはご自分の身体をなくしてしまい、今は霊的身体をおもちです。死後はいったん眠りの状態に入り、今、そこから目覚めつつあるところです」
スピリット「確かに電気ショックのようなものを与えられて目が覚めたのですが、まだボンヤリしています。人の顔がいっぱい見えます。知っている人ばかりですが、みんな、もう死んでいるはずです。周りに来て話しかけてくれるのですが、耳を貸さないようにしています」
博士「それがいけないのですよ」
スピリット「スピリットというのは生きているのでしょうか」
博士「生きてますとも!ここにいる私達は生身の人間ですが、あなたに見えている方達は、みなスピリットなのです」
スピリット「でも、あなた達と同じように現実味がありますけど・・・・」
博士「私達よりもっと現実味があるくらいですよ。肉体の束縛がないのですから・・・・。私達こそ、夢うつつの状態にあると言ってもいいのです」
スピリット「今こうして体調がいいのは夢を見ているからで、目が覚めたらまた痛くなるのではないかと不安なのです」
博士「ここを出て行く時は、大勢のお友達と一緒ですよ」
スピリット「私もご一緒できるということでしょうか」
博士「あなたのその『怖がる』気持ちさえ取り除けば、いつでも行けます」
スピリット「誰かが来ました。また一人来ました。私においでと言ってます」
博士「ロングフェローの詩をご存知でしょう?
   生命こそ実在!生命こそ厳粛!
   墓場は終着点にあらず。
   塵なれば塵に帰るべしとは、
   魂について言いしにあらず。」
スビリット「とても美しいものが見えてきました!なんて美しいのでしょう!夢としか思えません」
博士「スピリットの世界の美しさを、ちょっぴり見せてくださってるのですよ」
スピリット「あの丘の上の美しい家を見てください!」あの素敵な歩道、美しい湖や丘、一面に咲いているあの素敵な花々。美しいじゃありませんか。私もあそこへ行けるのでしょうか 」
博士「あなたの心にある拒絶心や、反抗心さえなくなれば行けますよ」
スピリット「私は女優でしたが、心の中では神を信じていましたし、今でも信じています。教会は女優という職業を軽蔑しますが、私は私なりに世のために尽くしてきたつもりです。世の中を楽しくするために、私達なりに出来ることをお見せしたいと思っていました」
博士「新しい世界でも同じことが出来ますよ」
スピリット「クリスチャンではないと言われれば、それはそうかも知れません。でも、私なりに立派な人間でありたい、人のために良いことをしたい、と願ってきました。それが私の信念でした。時たま教会に出席したことはあります。でも、あの雰囲気には、なぜか溶け込めませんでした」
博士「それは、教会には霊性がないからですよ」
スピリット「あのたくさんの光を見て!美しいじゃありませんか!光が合唱しています。いろんな色合いに変化しながらビブラートしています。色彩が奇麗です。
 あそこへ行ったら、これまでに出来なかったことをするつもりです。人さまに楽しい思いをさせてあげるだけではダメだと、何度も思ったものです。人生にはもっと大きな目的がなくてはならないと信じてました。でも、自分の心にだけは忠実に生きてきたつもりです。
 まあ、素敵!なんて美しいのでしょう!あそこが天国なのでしょうか」
博士「そうです。でも、キリスト教で言う『天国』とは違いますよ。地球を取り巻いているスピリットの世界です。イエスも『スピリット』と『スピリットの世界』の存在を説いているでしょう?パウロも『物的身体と霊的身体とがある』と言っています」
スピリット「アンナが言っていますー今の彼女は、私が知っているかつての彼女とは違う人ですって。今の本当の彼女を、私は知らないそうです。今は不幸な人達を救う仕事をしているのだそうです。何度もこの私を目覚めさせようとしてくれたそうです。皆さん方は、ここでどういうことをなさっておられるのですか」
博士「ここはですね、人間が死んだ後どうなるかについての知識を得るために、色々と調査をするところなのです。同時に、死んだあと迷っておられる人達に、霊的な悟りを得て頂くところでもあります。
 今あなたが使っておられるのは、私の妻の身体なのです。妻は霊媒と言いまして、身体と脳をスピリットにお貸しすることが出来るのです。それで、こうして私と直接お話をして、今あなたがどういう状態にあるのかを得心して頂くことが出来るわけです。あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのですよ。(霊媒の手を持ち上げて)これはあなたの手ではないでしょ?」
スピリット「違います。妙ですね」
博士「そうした事実について人間が知らなさ過ぎることの方が、もっと妙ですよ」
スピリット「教会はそういうことを教えていませんね」
博士「教会は信仰を押し付けるだけで、死後の生命についての知識を付け加えてくれません。本当はそれが一番必要なのです。
 バイブルも、信仰に知識を加えなさい、と言っております。イエスは『真理を知りなさい。そうすれば、その真理があなたを自由にしてくれるでしょう』と説いています。もしもあなたが、こうした霊的な事実を知っていたら、目覚めた時に迎えに来てくれたスピリットのお友達の言うことを、素直に聞いていたはずです」
スピリット「あんなに美しいところなら、ぜひ行ってみたいです。すっかり元気になったら、地上でやりたかったことが、こちらでも出来るんだそうですね。お友達がそう言ってます。でも、私をどう看病するつもりでしょうね?こんなに衰弱しているのに・・・・」
博士「その身体を離れた時は、今思っておられるほど衰弱はしてませんよ。『人間は心で思っている通りの人間になる
』ということわざがあります。ここを去ったら、大勢の人達に温かく迎えられて、素敵なお家に案内されます。何もかも新しい霊界の事情にわくわくして、弱々しくしている暇なんかありませんよ」
スピリット「もう一度眠りに入るのでしょうか」
博士「あなたは、病気で痛みに苦しんでおられた時に、おそらく麻酔薬を投与されていたはずです。その後遺症で意識がはっきりしなかったのかも知れません。でも、もう大丈夫です」
スピリット「ありがとうございます。あ、みんなが呼んでいます。行ってみたい気持ちになってきました。いろいろお世話になりました。これで事情が分かってきました。お友達のところへ行けることにもなりました。あのままでしたら、またドアを閉めて、一人、暗がりの中で暮らすところでした。あんな奇麗なところに行けるなんて、本当にありがとうございました。私は、結局、自分の意識の暗闇の中にいたわけですね。
 みんながしきりに私を呼んでいます。霊界の私の家に案内してくれるのだそうです。何か、ぜひ伝えてほしいことがあるそうです。元気が出なくて、全部お伝えできるかどうか分かりませんが、ある紳士の方がこう言っておられますー
『自分は地上ではエドワード王だったが、今はただの人になった。母は女王(ビクトリア)だったが、今はもう女王ではなく、地上にいた時よりも人のために役立つことをさせられている。母は生前から心霊現象に興味があり、スピリットが地上に帰ってくることも知っていた(バッキンガム宮殿に霊媒を呼んで、交霊会を催したこともある)。が、人間としての義務を怠り、生涯、何もかも人に世話をさせた。好きなことも出来なかったが、責任を取るということもしなかった。今、母は人のための仕事で奔走している。私も同じで、生命の実相を知るまでは、人の為に働かされます』
 以上が、その紳士からのメッセージです。多分、地上の人達が自分のことを今でも王と思っているだろうと思い、そう言いに来たようです。こちらでは、ただの一人間にすぎません。他の人達と同じように、仕事がしたいのだそうです。もう、貴族でも王家の血筋でもありません。
 わぁ、友達が大勢やってきて、握手を求めています。一つの大きな家族みたいです。
 では、そろそろお別れしたいのですが、どうやってこの身体を離れたらいいのでしょうか」
博士「『思いこそ自然界の問題の解決者なり』と申します。お友達のところへ行ったつもりになってごらんなさい。それだけで行けます。思念の焦点を、こちらからあちらへと移すのです。『自分は実際にあそこにいる』と念じてごらんなさい」
スピリット「ここへ来て、魂に目覚める機会をお与えくださって、心からお礼を申し上げたいと思います。これで、あの方達のところへ行けます」


資産家の霊


●最後の憑依霊
 人体から放射されている磁気性オーラと電気性オーラは、暗闇の中に閉じ込められている地縛霊には灯火のように見える。自我意識がしっかりしていないために、無意識のうちにそれに近づくのであるが、その際に、灯火と見られている人間が霊的感受性が特別に強いと、そのオーラに引っかかってしまう。
 本来なら拒絶反応(一種の防御本能)が働いてすぐに離れるのであるが、両者の間に何らかの因縁がある場合には、憑依現象がエスカレートして、スピリットの意識の働きがその人間の脳の働きにまで響くようになる。二重人格と言われているのはそういう状態をさす。これが一個のスピリットでなく、複数のスピリットが一人の人間のオーラに引っかかっている時が多重人格と言われている症状になる。
 次の例は、初めのうち手に負えないほど酷かった症状が、除霊が進むにつれて軽くなり、ついには最後の一人となった、そのスピリットを招霊した時のものである。


 患者=L・W夫人
 スピリット=ジュリア・スティーブ


博士「お名前をおっしゃってください。私達は、暗い闇の中にいる方々をお招きして、悩みをお聞きしている者です。亡くなられてからどのくらいになりますか」
スピリット「何かが起きたようには感じております」
博士「ご自分の身体から脱け出てしまっていることはお気づきですか」
スピリット「手を握らないでください。あたくしは資産家のレディーでございますの(L・W夫人はこのセリフをよく口にしていた )。レディーに対する礼儀をお忘れなく・・・・」
博士「『ミセス』と呼ばれてましたか、それとも『ミス』でしたか」
スピリット「あたくしは資産家のレディでございます。そのような下衆の質問には慣れておりませんので・・・。あたくしからあなたさまに申し上げたいことがございますの」
博士「どのようなことで?」
スピリット「あなたは、あたくしの背中に妙なものを浴びせる悪い癖がおありのようで(静電気治療のこと)。なぜ、あのようなマネをなさるのか、分かりませんの。あなたはまた、このあたくしを牢の中に閉じ込めましたね?(オーラの中で身動きが出来なくなった状態のこと)あなたに相違ございません。どこのどなたさまでいらっしゃいますか」
博士「あなたのためを思ってお話をうかがっている者です」
スピリット「第一、あたくしはあなたさまを存じ上げておりません。第二に、あなたさまにご相談申し上げることは何もございません。どなたさまですか。お名前をおっしゃってください」
博士「ドクター・ウィックランドと申します」
スピリット「ほんとはお名前をうかがっても仕方ないのですけどもね・・・・。何の興味もございませんもの」
博士「スピリットの世界へ行きたいとは思いませんか」
スピリット「そんな話、聞いたこともございません。あたくしは、スピリットではございません」
博士「その手をごらんになってみてください。あなたのものでしょうか」
スピリット「あなたという方は、このあたくしを永いこと牢に閉じ込めておいて、今度はニセモノを見せようというのですか。聞く耳はございません」
博士「ここへは、どうやって来られたのでしょうか」
スピリット「あたくし自身には身に覚えがございません。とても奇妙な感じがするのは確かです。牢の中にいて、ふと気がつくと、ここに来ておりました。どうやって来たのか、分かりません。以前はお友達(他の憑依霊)が沢山いたのですが、いつの間にか一人ぽっちにされてしまいました。牢に入れられているのですが、どんな悪いことをしたのか、自分でも分かりません」
博士「そのお友達とは、どこで一緒だったのですか。どこに立ち寄っておられたのですか」
スピリット「立ち寄っただなんて・・・。ちゃんとした自分達の家にいましたよ。仲間が大勢いましたー男性も女性も。ただ、なぜだかそこから出られなくて・・・。温かいところにいたり、一人ぽっちになったり、暗いところにいたり・・・。今は一人っきりになりました。あたくしを焼くのは止めてくださいよ」
博士「あの電気療法は、地縛霊にはよく効くのです。無知な霊にね」
スピリット「無知ですって!よくもそんな失礼な言葉が使えるわね。生意気な!」
博士「あなたはもう物的身体から脱け出てしまったことをご存知ないのですか。肉体を失ってしまわれたのです」
スピリット「どうしてそんなことが分かるのよ?」
博士「それは、今あなたが話しておられる身体は、あなたのものではないからです。それは、私の妻のものなのです」
スピリット「あの針のようなものを浴びせる前は、あなたを一度も見かけたことはございませんよ」
博士「あの時のあなたは、それとは別の身体を使っておられたのです」
スピリット「一体、それはどういう意味ですか」
博士「別の人間の身体に乗り移っておられたということです」
スピリット「なるほど、そういえば思い当たるフシがあるわね。なんとなく自分が自分でないような気がしたかと思うと、また自分に戻った感じになったりしてました。一人、図体のでかいのがいて、少し間抜けなところがあるんですけど、その人の言う通りにさせられていました(もう一人の憑依霊で、この女性の前に除霊された、ジョン・サリバンのこと)。
 ほんとは言いなりにはなりたくなかったのです。だって、あたくしは欲しいだけお金があるし、なんであんなゴロツキに悩まされる必要がありますか。そこはあたくしの自宅ではありませんでしたが、そこにいないといけなかったのです。なぜ逃げ出せなかったかが分かりません。その男は、あたくしを入れて数人ばかりを牛耳ってました」
博士「例の電気が、逃げ出すのに役立ったわけでしょう?」
スピリット「そうね。でも、その時の痛さったら、ありませんでしたよ。命がなくなるかと思いましたよ」
博士「何はともあれ、その電気のお陰で自由になれたじゃありませんか」
スピリット「あの男からはどうしても逃げられませんでした。言われた通りにしないと大変なの。彼がやたらに走りたがるものだから、あたくしたちも走るしかなかったのです(患者はよく逃げ出すことがあった)。
 一人、小さい女の子がいて、その子は泣き通しでした。時々自由になったかと思うと、すぐまた、そういう悲劇に巻き込まれるのです。時にはフワフワ漂いながら、あちらこちらへ行くような感じもましした」
博士「そんな時は一個の自由なスピリットとなっておられたのですよ」
スピリット「スピリットという言葉を口にしないでください!大嫌いです。そういう類いのものには縁はございません」
博士「あなたは、まだ、ご自分が肉体から脱け出てしまったことが悟れないのですね。死んだと言っているのではありません。ちゃんと生きていらっしゃいます。ただ、今はスピリットとして生きているということです」
スピリット「あたくしは死んでなんかいませんよ。今こうして、あなたと話をしているじゃありませんか。手も腕も、これ、ちゃんと動かせるじゃありませんか」
博士「いいですか。あなたが私に向かって話をなさっていても、私達にはあなたの姿は見えていないのです。見えているのは、私の妻の身体です。あなたは私の妻の身体を使って喋っておられるのです。ミセス・ウィックランドの身体です。あなたのお名前は?」
スピリット「エミリー・ジュリア・スティーブです。結婚してましたが、夫は数年前に他界しました」
博士「ここがカリフォルニアであることはご存知ですか」
スピリット「そんなところへ行ったことはありません。最初シカゴへ行き、そこからセントルイスへ行きました」(患者もセントルイスに住んだことがあり、そこで異常行動が出始めている)
博士「セントルイスのどちらでしたか」
スピリット「あたくしは旅行していたのです。住んでいたのではありません」
博士「病気になった記憶はありますか」
スピリット「何も思い出せません。(急に興奮状態になる)イヤ、イヤよ!あたし、どうかしてるわ!気でも狂ったのかしら?見て!ホラ、見て!夫がいるわ。幽霊だわ。見て!」
博士「こうしてあなたと話をしている時は、私は実は幽霊と話をしているのと同じなのです。でも、ちっとも怖くはありませんよ」
スピリット「あたしの子供もいる!赤ちゃんだったのよ!リリー!リリー!夫のヒューゴーよ。あたし、頭が変になりそう。まあ、母さんまでいる!みんな、あたしの方へやってくる!ヒューゴー、ほんとにあなたなの?リリー!会いたかったわ!でも、怖い!」
博士「あなたはもう生身の人間ではないのです。スピリットになっておられるのです。そのことを早く悟りなさい」
スピリット「夫やリリーがなぜ私のまわりにやって来たのか教えてください。天国では幸せではなかったのでしょうか。なぜ天国に留まっていないのでしょうか」
博士「天国とはどんなとこだか、ご存知ですか」
スピリット「天空の高いところにあって、キリストと神がいらっしゃるところです」
博士「イエスは『神の王国はあなたの心の中にある』と言いました。『あなたは神の神殿であり、神の霊はあなたの中におわします』とも言ってます。さらにまた、『神は愛です。愛の中に住める者は神の中に住むのと同じです』とも言っています。神は上にも、下にも、いたるところにましますのです」
スピリット「人間の姿をした神は、存在しないのでしょうか」
博士「神は大霊なのです。一つの場所にのみ存在するものではありません」
スピリット「なんだか疲れてしまって、おっしゃることが理解できません。どこか休む場所があれば喜んでまいります。これまであたくしがどんな苦しい目にあってきたか、とても口では申せません。帰る家はなく、疲れた頭を休める場所もなく、あちらこちらと歩き回っても、家も安らぎも見つかりません。どうか安らぎを、と祈ろうとすると必ず邪魔が入るのです。
 大勢がひしめき合っておりました。あたくしがいじわるな態度をとったこともあります。仕方なかったのです。けだものに取り憑かれたみたいに、大喧嘩もしました。それが終わると、何日もの間、ぐったりとなるのです。
 酷い目に遭いました。あのゴロツキがいつもあたくしの後をつけまわし、小さい女の子は泣き通しでした。今はもうその男もいなくなりました。ここしばらく見かけなくなりました。泣いてばかりいた女の子もいなくなりました」
博士「ご主人やお母さんや、お子さん達と一緒に行かれてはいかがですか。皆さんが介抱してくれて、休むことも出来るでしょう。何はさておき、肉体はもうなくなったのだということを、しっかりと自覚してください」
スピリット「いつからなくなったのでしょう?」
博士「それは私達には分かりません」
スピリット「大柄な女性になって誰とでも喧嘩ができそうな気分になったかと思うと、今度は小柄な女性になったみたいに感じたりして、とても変でした」
博士「それは多分いろんな人間に乗り移ってたのですよ。もう、これでそういう状態からすっかり脱け出られますよ」
スピリット「そうしたら休むことが出来ますね?目が覚めてみたら、これは全部夢で、またあのゴロツキと泣き虫と一緒の生活になるのではないでしょうね?あの男はもうご免です。まるで悪魔でした。女の子をいじめるものだから、それで女の子は泣き通しだったのです」
博士「さ、そういう過去のことはすべて忘れて、これから先のことを考えましょうよ。ご主人と一緒に行ってください。スピリットの世界のすばらしさを説明してくれますよ」
スピリット「夫のヒューゴーが見えます。夫が死んでからのあたくしの人生は、まったく生き甲斐がなくなりました。それからわずか一ヶ月後に子供も死にました。三歳の幼児でした。夫があたくしの生き甲斐でした。夫が死んでからは、自分はもうどうなってもいいと思いました。よく一緒に旅をしたものです。アラスカに行った時に夫が風邪を引き、肺炎を併発し、子供も重病になりました。もう一度やり直すのは、とても無理です」
博士「もう一度やり直してみられてはいかがですか。そのために、皆さんが迎えに来られたのですよ」
スピリット「一緒に行きたいのは山々ですが、怖いのです。だって、みんな死んだ人達ばかりですもの。夫が言ってますーあたくしをずいぶん探したのだそうです。夫と子供が死んでから、あたくしも病気になりました。医者の診断では、神経耗弱だと言われました。それがさらに悪化して、エルギン(多分、精神病院の名前)と呼ばれる場所へ移されたのを覚えています。うっすらと思い出すだけです。そのうち急に良くなったので(この時死亡)、妹のいるセントルイスへ行きました。が、妹に話しかけても、何の反応もなくて、何か変でした。
 では、みんなと一緒にまいります。あの美しいベッドをごらんなさい。これであたくしもゆっくり休めます。夫と一緒になれば、もう面倒なことにはならないでしょう。
 夫が、あたくしをついに見つけることができて喜んでいることを、あなたに伝えてほしいと言っております。もう二度と別れないようにすると言ってます。では皆さん、さようなら」


事故死した霊


●『逆上癖』の女性を救済したケース

R・F嬢は、突然逆上して走り出すという行動を、断続的に繰り返していた。が、その憑依霊を招霊し、説得し、離れてもらうことで、きれいに収まった。


 1920年9月15日
 スピリット=エドワード・スターリング
 患者=R・F嬢

霊媒に乗り移ると同時に、椅子から立ち上がって走り出そうとしたので、押さえ込もうとすると逆上した。

博士「座ってください」
スピリット「いやだ!」
博士「どこへ行きたいのです?」
スピリット「家だ」
博士「家?あなたの家はどこですか」
スピリット「探しに行くんだ」(我々の手を振り切ろうとして激しく暴れる)
博士「おしとやかなレディですね」
スピリット「レディ?レディ?俺はレディじゃない、男だ!」
博士「どちらから来られました?」
スピリット「どこだっていい。これから家に帰るところだ」
博士「家はどこにあるのですか」
スピリット「見つかりさえしたら、どこだっていい。とにかく、こんなところに座っているわけにはいかんのだ。帰るんだ。言ってることが分からんのか!」
博士「なぜ髪を切ったのですか」(患者は衝動的に髪の毛を切っている)
スピリット「女みたいな長い髪をしていて平気でいられると思うか。イヤだね。冗談じゃない!さ、帰らせてくれよ。頼むから」
博士「どこへ帰るのです?あなたには家はないのです」
スピリット「ここにいたくないのだ。帰りたいのだ」
博士「死んでどれくらいになりますか」
スピリット「死んでなんかいない。帰してくれよ!身体中にあんな恐ろしいものを浴びせやがって・・・・トゲみたいな、何か先のとんがったものを刺されたみたいだ」
博士「私が患者さんに流した電流をそのように感じられたのです」
スピリット「二度も逃げ出そうとしたが、連れ戻された」
博士「なぜあの方(R・F嬢)に髪を切らせたのですか」
スピリット「誰にも切らせてなんかいないよ。俺の身体なんだから、切りたい時に切るさ。眠り込んで、目が覚めたら髪がひどく伸びていて、どうしようかと思った。女みたいだったので、自分で切ったんだ。散髪に行くわけにもいかんだろう?恥ずかしくて通りを歩けないよ」
博士「あなたが切ったのは、あなた自身の髪ではなくて、今まで乗り移っていた女性の髪だったのですよ」
スピリット「俺は俺の髪を切ったんだ。なんでこんなところに引き止めておくんだ?あんたをはじめ、他の誰にも、俺は何も悪いことはしていないじゃないか」
博士「あなたは、一人のご婦人に大変いけないことをして、その方を困らせてきたのです。あなたは男だとおっしゃるけど、女性の服装をしてらっしゃいますね。どうなってるんでしょうね?」
スピリット「男性用の服が手に入らなかっただけのことさ」
博士「この事実を知って目を覚ましてくださいよ。何か身の上に異変が起きているに違いないのですけどね?」
スピリット「座らせてくれよ」
博士「いいでしょう、おとなしくしていればね。いかがです?一体どうなってるのか、知りたいとは思いませんか」
スピリット「こんなところにいたくない。早く帰らせてくれよ」
博士「大人しく腰掛けて、私の言うことを聞いてくれれば、今あなたがどういう状態にあるかを説明してあげましょう。あなたは、いわゆる『死者』となっておられるのです」
スピリット「死んでなんかいないよ。そんなに抱きしめんでくれ!」
博士「あなたを抱きしめているのではありません。私の妻を抱きしめているのです。今あなたはまったく普通と違う状態にあるのです。もう肉体から脱け出ているのに、それがあなたには理解できていないのです」
スピリット「行かせてくれよ。ここから出たいのだ。なんで俺の手を押さえるのだ?」
博士「あなたの手を押さえているのではありません。私の妻の手を押さえているのです」
スピリット「あんたの奥さんの手だと!? 俺はあんたに会うのは今日が初めてじゃないか。あんたの奥さんなんかじゃないよ。第一、男が男と結婚するのかね?そんな話、聞いたことがないよ」
博士「私の言ってることに間違いはありません。あなたは何も知らずにいるスピリットで、今までの自分の状態が分かっていらっしゃらないのです」
スピリット「俺のことは構わんてくれよ。とにかく帰りたいのだ」
博士「死んだらどうなるのか考えてみたことがありますか」
スピリット「俺は死んではいないよ。ただ眠り込んだだけだ」
博士「それが死の眠りなのです」
スピリット「永いこと眠っていて、目が覚めたら髪の毛がひどく伸びていたんだ」
博士「髪が伸びていただけでなく、衣服まで女性のものを着ていた・・・どうやって手に入れたのですか」
スピリット「でも、やっぱり俺は死んではいない」
博士「物質で出来た身体を失ったのですと申し上げているのです。身体をなくしてしまうと死んだことになるのです」
スピリット「ほんとに死んだのなら、墓へ行って最後の審判の日まで待ってるよ。ガブリエルがラッパを吹くまでな・・・」
博士「それは愚かしい信仰なのです。あなたは生命の神秘を勉強なさらなかったようですね?」
スピリット「死んだら、神とキリストを信じていれば天国へ行くんだと教わったよ。キリストが我々の罪を背負って十字架で死んだのだとね」
博士「じゃ、なぜあなたは天国へ行ってないのでしょうね?あなたは地上の人間としては死んだのです。あなたは今ここにいらっしゃるけど、あなたの姿は私達には見えていないのです。見えているのは、私の妻の身体だけなのです」
スピリット「あんたの奥さんには会ったことがないから、どんな方か知りません」
博士「霊媒というものについて聞いたことがありますか」
スピリット「あるよ。でも、信じない」
博士「あなたは今、その霊媒の身体を使って喋っているのです。男だとおっしゃるけど、女性の身体で喋ってるじゃないですか」
スピリット「嘘だ!大嘘だ!」
博士「でも事実ですよ。女性の服を着てるでしょ?これで、あなたの身の上に何か変わったことがあったことがお分かりでしょう。おそらく、ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることはご存知ないのでしょうね?」
スピリット「ロサンゼルスなんかじゃない」
博士「では、どこですか?」
スピリット「あちらこちらを転々と動いていたので・・・・」
博士「その手をごらんなさい。あなたのものではないでしょう?」
スピリット「あんたのことは、あの電気治療をしてくれるまでは知らなかった。あれがどんなに痛いか、あんたは知るまい。ずいぶん我慢したが、たまらなくなって飛び出したら、図体のでかいインディアン(霊媒の背後霊の一人)が俺を捕まえて牢へ入れてしまった。しばらくして出してくれたと思ったら、ここへ連れてこられていた」
博士「あなたはそれまでずっと、一人の女性を苦しめておられて、あの電気治療でやっとその方から離れたのです」
スピリット「一体どうなってるのかな?ここへ来てから、何だか窮屈に感じられるんだが・・・」
博士「多分あなたは、大柄な方だったのでしょうね。それが今、それより小さい身体の中に入っておられるから、そう感じるのでしょう。それよりも、早く心を開いて、今あなたが置かれている実情を学ばなくては・・・・」
スピリット「学ぶことなんか何もないよ」
博士「ご自分の身体をなくされたのは、かなり前のようですね。今年は何年だと思われますか」
スピリット「永い間ぐっすり寝ていたので、知らんね」
博士「今の状態を体験されていて、何か疑問に思うことはありませんか。私達の目には、あなたの姿は見えていないのですよ。お話になる声が聞こえるだけなのですよ」
スピリット「目に見えない者と話をしてどうするんだ?」
博士「この婦人は霊媒なのです。あなたはその霊媒の身体を使って喋っているスピリットなのです」
スピリット「そんなこと、信じないね」
博士「それは私の妻の身体です。となると、あなたは私の妻だとおっしゃるのですか」
スピリット「あんたの奥さんなんかじゃない!俺は男だぞ!」
博士「あなたが憑依していた女性の身体から、私が引き離したのです。あなたがその方に気狂いじみた行為をさせていたからです。どうやってここへ来られましたか」
スピリット「こっちが聞きたいよ」
博士「あなたは人間の目には見えないスピリットになっているのです。その辺の事情が分かっておられない。あなたが憑依していた女性は、その頃たまたま神経過敏になっておられ、それであなたが憑依したのです。その女性が気狂いじみた行動をしたのは、皆、あなたのせいだったのです。ご自分はどう思われますか」
スピリット「自慢にするほどのことでもないが、とにかく俺はその女性のことは何も知らんね」
博士「その方の髪を切って逃げ出したのは、あなたのせいですよ」
スピリット「なぜこの俺に長い髪がいるのだ?眠りから覚めてみたら髪が伸び過ぎていたから切ったーそれだけのことさ」
博士「あなたが切ったのは、その女性の髪だったのです」
スピリット「長過ぎたから切ったんだ」
博士「その女性の身になってごらんなさい。もしもあなたが自分の髪を誰かに勝手に切られたら、どうします?平気ですか」
スピリット「そりゃ、イヤだよ」
博士「少し勝手すぎるとは思いませんか」
スピリット「訳が分からん。じゃあ聞くが、もしも俺があんたの言う通り、死んでるとしたら、なぜ天国か地獄に行ってないのかね?」
博士「そんな場所は存在しないからです」
スピリット「神様もキリストも悪魔も見かけないのに、あんたは俺のことを死んでると言う」
博士「あなたが死んでると言ってるのではありません」
スピリット「今さっき『死んだ』と言ったじゃないか」
博士「地上世界の人間から見ると、死んだことになるという意味です」
スピリット「『あなたは死んだのです』と言ったよ」
博士「いわゆる『死んだ人間』になった、つまり物的身体をなくされたという意味です」
スピリット「でも『死んだ』と言ったぞ!」
博士「もう少し分別を働かせなさい。そうしないと隣の部屋へ連れて行って、例の電気治療をしますよ」
スピリット「あれは止めてくれ!あれをやられると、まるで身体に火をつけられたみたいな感じになる」
博士「女性の身体から離れて頂くためにやったことです。それがうまくいったのです」
スピリット「あのままあそこにいて、何が悪いのだ?」
博士「あの方から取り除く必要があったのです」
スピリット「勝手に連れ出す権利があんたにあるのかね?」
博士「あなたこそ、他人の身体に取り憑いて、その人の生活をメチャクチャにする権利があると思いますか」
スピリット「誰だって生活する場所がないといけないだろう?」
博士「仮にその女性というのが、あなたのお母さんだったとして、そのお母さんにわがままなスピリットが憑依して気狂いじみた行動をさせたとしてみましょう。あなたはほうっとけますか」
スピリット「俺は気狂いじゃない。他人に気狂いじみた行動をさせた覚えもない」
博士「その女性が、自分の髪を切って、家を飛び出すというのは気狂いじみています」
スピリット「男が髪を長くしていて、平気でいられるわけがないじゃないか」
博士「あれは女性の身体で、切ったのは女性の髪で、あなたのものではないのです。あなたはもうその女性の身体から離れたのですから、考えを改めないといけません。言うことを聞かないと、土牢に閉じ込めますよ。さっきあなたは『インディアンが俺を捕まえて』とおっしゃいましたが、素直にしないと、別のインディアンが捕まえに来ますよ」
スピリット「来たら、今度こそ負けんぞ!」
博士「よく聞きなさい。私の妻は霊媒なのです。あなたのような方に身体を貸してあげて、気づかずにいる現実を知って頂くチャンスを与えてあげているのです。このチャンスを有り難いと思わないといけません。今でも、あなたの他に何千というスピリットが順番を待っているのです。
 辺りに誰か親戚の方が見えていませんか。その方達がスピリットの世界へ案内してくれますから、おとなしく分別を働かせて、理解しようという心構えにならないといけません」
スピリット「どうしたらいいのかね」
博士「スピリットの世界があるということをまず理解して、そこへ行けるように、心がけを改めないといけません」
スピリット「天国のことですか」
博士「神の国は、あなたの心の中にあるのです」
スピリット「キリストが、あなたの罪を背負って死んでくれたことを信じないのですか」
博士「私は、キリストが私の罪を背負って死んでくれたとは思っていません。そんな信仰には何かが欠けていることが分かりませんか。イエスは、人生とは何かを教えてくれたのです。誰の罪も背負ってくれてはいません。キリストが自分の罪を背負って死んでくれたと信じるような人は、イエスの教えを本当に理解していない人です。
 そもそも、そんな教義は、全知全能の神の概念に反しております。もしもその教義が真実だとしたら、神はうっかり間違いを犯し、それを償うために仲介役を用意せざるを得なかったことになります。
 さあ、そろそろあなたも、私の妻の身体から離れて頂かないといけません。そして、二度とあのご婦人に迷惑をかけないようにしてください」
スピリット「何を言う!私はあんたの奥さんは一度も見かけたことないよ」
博士「今あなたは、一時的に私の妻の身体を使っておられるのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。いい加減に目を覚まさないと、強制的に引っ張り出して、バイブルにある『外なる暗黒』の中に連れて行ってもらいますよ」
スピリット「俺をこんな目に遭わせる神様が間違っているんだ。俺は祈って祈って祈り続けたもんさ。真面目に教会へ通って、ずいぶん献金もしたもんさ。金を出さないと、死んだらまっすぐ地獄へ行くなんて脅すからさ。出しただけのお返しはあると信じてたよ」
博士「イエスは何と言ったのでしょう?『神は霊的存在であり、神を崇める者は霊性と真理の中に崇めないといけない』と言ってます。神は霊的存在なのです。一個の霊ではありませんよ。バイブルにはこうもあるでしょうー『神は愛であり、愛の中に生きる者は神の中に生きる者である』と。
 そういう存在が自分の心の中以外のどこに見出せるのでしょうか。『あなたは神の神殿であり、神の霊性はあなたの中にある』とも言っています。では天国とは何か?それは、各自の心の状態を言っているのであり、人生の目的を理解した時に成就されるのです」
スピリット「天国はどこかの場所ではないのですか。バイブルでは場所のように言ってるよ。天国の通りは黄金で舗装されてると言ってます。違うんですか」
博士「それは、他の言葉と同じように、真理を象徴的に言っているのです」
スピリット「さっき、あんたはイエスは我々の罪を背負って死んだんじゃないと言ってたが、じゃ、あんたの信仰はどうなのかね?」
博士「我々地上の人間は、物質の身体に宿った霊的存在だというのが私の考えです。その身体から出た後、理解のできた者は霊的な目が開いて、『外なる暗黒』へは行きません。そこへ高級界の方が案内に来てくれます。今も、あなたの知ってる方が何人か助けに来ているかも知れませんよ。あなたの身の上に何か異変が起きていることに気づきませんか」
スピリット「そういえば、前よりは、よく喋れるみたいだ。あんたの話だと、あんたの奥さんを通して喋ってるそうだけど、どうしてそんなことが出来るのかね?」
博士「私の妻は霊能者で、スピリットがその口を借りて喋る機能が発達しているのです。高級霊の方が、あなたにもこうして話をすることを許してくださったのです。ただし、あまり長時間はダメですよ」
スピリット「出来ることなら、このままこうしていたいものです。前より気分がいいです。かなりスッキリしています」
博士「スピリットの世界の事情を理解なさったら、もっと気分が良くなりますよ。幼い子のように素直になることです。そうすると『神の国』へ入れます。信じるだけではいけません。理解しないといけません。お名前は何とおっしゃいました?」
スピリット「エドワードです」
博士「姓は?」
スピリット「知りません」
博士「どこにお住まいでしたか。ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」
スピリット「いえ、知りません」
博士「なぜご存知ないのでしょうね?」
スピリット「記憶がありません。考えるということが出来ないのです。これ以上のことは何も分かりません」(精神病患者によくある健忘症は、憑依したスピリットの精神的混乱から生じていることを暗示している)
博士「それは『外なる暗黒』の中にいたからですよ。そして、フラフラしているうちに、あのご婦人のオーラに入り込んじゃったのです。それが彼女に気狂いじみた行動をさせることになったのです」
スピリット「気持ちのいい、静かな家が欲しかったのです」
博士「あなたのなさったことがいけないことだということは、お分かりですね?」
スピリット「暗闇の中を歩き続けていて、ふと明かりが見えたら、誰だって入りたいと思いませんか」
博士「明かりは明かりでも、それはあなたに必要な明かりではありません。あなたに必要なのは理解という明かりなのです」
スピリット「では、教会へ行って賛美歌を歌い、神に祈り、バイブルを読めとおっしゃるのでしょうか」
博士「バイブルは本当は誰が書いたものか、勉強なさったことがありますか」
スピリット「バイブルは神の啓示の書です」
博士「バイブルは神が書いたものではりあません。人間が書いたのです。常識ある人間社会に通用しないような内容のものを、神がお書きになると思いますか」
スピリット「では、誰が書いたのですか」
博士「いろんな時代にいろんな資料を集めて、主に想像上の悪魔と地獄を恐怖のネタにして、人心を抑える目的で編纂されたものなのです。詩・歴史・寓話・思想の寄せ集めであり、その中に矛盾と真理とがごちゃ混ぜになっております。
 それを人間は、一字一句にいたるまで神の言葉であると信じ、筋の通らないものまで、言葉どおりに解釈しようとします。バイブルにも『儀文は殺す、されど霊は生かす』とあり、また『霊的なものは霊的に見極めないといけない』とも言っております。つまり、宗教とは知的な見極めのプロセスを言うのです。
 キリストの教えの中には素晴らしい真理が含まれています。ところが教会は、ただの寓話を事実であるかのように説き、ドグマと教義と信条とが、その奥に秘められた霊的な意味を曖昧なものにしてしまったのです」
スピリット「神は六日間で地球をこしらえて、七日目に休まれたという話を信じますか」
博士「信じません。それも、ただの寓話です。七日というのは大自然の七つの基本的原理のことです。『神は創造者であると同時に創造物でもある』と言われます。もしも神が働くことを止めたら、すべての活動が止まってしまいます。生命というものを有るがままに理解することです。教えられたままを信じてはいけません。
 さ、もうだいぶ時間が経ちました。これ以上、その身体に留まることは出来ません。よくごらんなさい。どなたか知った方の姿が見えませんか」
スピリット「あっ!母さんだ!もうずいぶん会ってないなあ・・・・でも、待てよ。母は俺がちっちゃい頃に死んだはずだ」
博士「お母さんのおっしゃる通りになさい。力になってくださいますよ」
スピリット「ああ、母さん!ボクを連れてってくれるかい?お願いだ、連れてってよ。ボクはもう疲れたよ」
博士「勿論、お母さんは連れていってくださいますよ。でも、さっきのような愚かな信仰を捨てて、理解ということを心掛けないといけませんよ」
スピリット「行かせてください」(と言って立ち上がる)
博士「お母さんと一緒になったつもりになってください。その身体は私の妻のものですから、そのまま行くわけにはいかないのです。一緒になったつもりになるだけで、お母さんのところへ行けます」
スピリット「疲れてしまって、うんざりです。ほんとに疲れました。母と行かせてください。母がやって来ます。別れてずいぶんになるなぁ・・・・」
博士「さあ、一緒に行きなさい。神は考える為の知性を与えてくださっております。お母さんをはじめ、人の言うことをよく聞くのですよ」
スピリット「母が、あなたへの無礼のお詫びを言いなさいと言ってます。迷惑をかけたあのご婦人にも許してくださるよう、ちゃんとお詫びを言うようにとのことです」
博士「どちらから来られたか、教えて頂けませんか」
スピリット「思い出せません」
博士「今年は、何年だと思いますか」
スピリット「たしか1901年です」
博士「それは19年前ですね。大統領の名は?」
スピリット「マッキンレー」
博士「彼は、1901年9月6日に撃たれて、14日に死亡しています。今年は、1920年です」
スピリット「その間私はどこにいたのでしょう?眠っていたのでしょうか。私は1901年の冬にひどい病気にかかり、その後のことはよく覚えていないのです。クリスマスの頃のことで、風邪をひいて、それが悪化したのです」
博士「病気になった時はどこにいましたか」
スピリット「山で材木の伐り出し作業をしていました。何かが頭に当たったのを覚えていますが、思い出せるのはそれだけです。母が言ってます・・・私の姓はスターリングだそうです。そうだった、そうだった!」
博士「木材業をする前はどこにいたか、お母さんはご存知ないでしょうね?」
スピリット「生まれたのはアイオワ州だと言ってます。ウィスコンシン州の森林地帯で仕事をしている時に、事故に遭ったのだそうです。昔はアイオワに住んでいました」
博士「住んでいた町の名前は思い出せますか」
スピリット「いえ、思い出せません」
博士「ま、いいでしょう。これからは生命の実相についての理解を得て、人の迷惑でなく人の為になるように心掛けないといけません。あなたはこれまで、一人の女性に迷惑をかけてきて、その方は未だに完全には良くなっておられないのです」
スピリット「迷惑をかけていたのは私一人ではなく、他に二人、私と同じようなことをしていたのがいます」
博士「すっかり元気になったら、今度はそのご婦人が完全に良くなるための手助けをしてあげないといけません。残りの二人のスピリットを取り除いてあげるのです」
スピリット「やってみます。有り難うございました。さようなら」


犯罪者の霊


犯罪を唆すスピリット

●肉体離脱後も残る『犯罪癖』
 習慣とか願望、性癖といったものは精神の奥深く根を張っているもので、肉体を離れた後も、当人の意志によって自然的に取り除かれるまでは、死後もずっとそのまま残っていることが多い。
 特に、処刑されて強引に肉体から離された場合は、怨みを抱き復讐の機会を求めて、いつまでも地上圏に留まり、霊的なものに過敏な人間に憑依して、好き放題のことをすることがある。我々の調査によって、まさかと思うような真面目な人間が、地上で殺人を犯したスピリットに憑依されて新たにむごたらしい殺人を犯すというケースが少なくないことが分かっている。

●マジソン・スクェアガーデン惨殺事件の真相
 1906年にスタンフォード・ホワイトという男性が、ハリー・ソーという名の犯人によって、ニューヨークのマジソン・スクェアガーデンで惨殺された事件も、その典型だった。ハリーは、生まれつき霊的感受性が強く、スタンフォードを殺害した時の心理状態がどうであったにせよ、恨みに満ちた複数のスピリットに唆されていたことは間違いないことが、我々の招霊実験で判明した。つまり、ハリーは、無知で復讐心を抱いた低級霊集団によって演出された、見えざる世界での恐怖のドラマの、地上の執行人に過ぎなかったわけである。
 その殺人事件から数週間後の7月15日にホームサークルを催している最中に、予定されていたのとは違う別のスピリットが私の妻に憑依し、妻の身体はその場に倒れた。私が抱き上げて椅子に座らせてから質問しようとした。すると、身体に触れたことに腹を立てて『余計なことをするな』と言ったあと、
「おい、ウェイター、酒だ!」
と大声で言った。そこで、私が聞いた。
「何にいたしましょう?」
「ウィスキーをソーダで割ってくれ。はやくしろ!」
「どなたでしょうか」
「誰だっていい。余計なお世話だ」
「ここはどこのおつもりですか」
「マジソン・スクェアガーデンじゃないか」
「お名前は何とおっしゃいますか」
「知りたけりゃ教えてやろう。スタンフォード・ホワイトだ」
そう言ってから片手で後頭部を押さえ、もう一方の手で痛そうに胸や腹をかきむしりながら、「早くウィスキーをもってくるように、ウェイターに言ってくれ!」と言う。
 私がさらに質問しようとした時、そのスピリットの目に他のスピリットの姿が見えたらしく、急に恐怖で身体を震わせ始めた。
「死んだ人達の姿が見えるのでしょう?」
 私がそう言うと、激しくうなずいてから、大声で、
「あいつらが俺を追っかけてくるんだ」
 と言うなり、椅子から飛び出して部屋の隅の方へ走って行き、そこで霊媒の身体から離れてしまった。その直後に、今度は別のスピリットが乗り移って、ひどく興奮しながら行ったり来たりして、
「こいつは俺が殺ったんだ!この俺が殺ったんだ!見ろ、あそこにくたばってやがる」
 と言って、さっきのスピリットが離れた隅の方を指差し、さらに、
「こん畜生め!奴を殺そうと思って何年チャンスを待っていたことか。ついに殺ったぞ!こん畜生めが!」
 と怒鳴った。
 そこで、その男を無理矢理椅子に座らせて質問してみると、名前は『ジョンソン』であることが分かった。そして、
「ホワイトは俺が殺ったんだ。あれでいいんだ。奴は娘っ子をおもちゃにしやがった」
と述べた時の言葉の響きには、上流階級への憎悪がむき出しになっていた。さらに言葉をついで、
「あいつらは俺達の(階級の)娘をさらっては、奇麗なドレスを着せておもちゃにしてやがる。親達も知らん顔さ」
 と言う。私が死んだことには気づいているのかと尋ねると、バカバカしいと言わんばかりに笑い飛ばして、
「死んだ人間がものを言うかよ。医者は、俺が肺をやられているから先は永くないと言ってやがったが、死ななかった。こんなに気分がいいのは初めてだよ」
 そこで、私が手と足とドレスを見るように言うと、男が女の身体をもつとはどういうことかと言い返し、私との間で長々とやりとりが続いたが、どうにか納得がいったらしく、おとなしく去って行った。
 続いて憑依したスピリットは、自分の死をよく理解していて、
「ハリー・ソーの父親で。息子を救ってやってください。どうか救ってやってください。息子には罪はないのです。電気椅子に座らされるようなことはしていません」
 と言い、続けてー
「ハリーは霊的影響を受け易く、子供の頃からそうでした。行動が風変わりで、すぐに興奮するので、発狂するといけないという心配から、私も家内も、彼を強くいさめることをしなかったのです。
 今それが間違っていたことが分かりました。地上にいた頃は、ハリーの異常の原因が分かりませんでしたが、今、霊界から見ると、ハリーは生活のほとんどを低級な地縛霊の道具にされていたことが分かります。
 スタンフォード・ホワイトを殺した時も、復讐心に燃えた複数のスピリットのとりこにされていたのです。これまで私は可能な限りの手段を尽くして、地上の人達にハリーが本当は気が狂っているのではなく、霊的に過敏な子であったことを分かって頂こうと努力してまいりました。どうか、あの子を救ってやってください!どうか救ってやってください!」
「どうして欲しいのでしょうか」
「私の妻と弁護士のオルコットに手紙を書いて頂き、この度の私が述べたことを知らせて、ハリーの本当の事情を教えてやって頂ければと・・・・」(その時点では、ハリーの弁護士のことは何も知らなかったが、後で間違いなくオルコット氏であることを確認した)
「おっしゃる通りに致しましょう」と言うと、そのスピリットは離れて行った。その翌日(七月十六日)の晩には、さらにもう一人のスピリットが出現した。初めのうち、誰かを探している様子で、「他の連中はどこへ行った?」と聞き、やはり上流階級への恨みつらみを述べて、若い女の子がすぐに騙されてしまう愚かさを吐き棄てるように言ってから、さらに、
「金持ちは、俺達の娘を奴らの隠れ家へ連れ込んで、金づるにしてやがる。娘達も親のことなんかどうでもいいと言い出す始末さ。痛い目に遭わせてやらんといかんのだ、あいつらは!」
 と、ジェスチャーを交えながら喋るのだった。初めから終いまで興奮し通しで、私が質問らしい質問をしないうちに、突如として霊媒から離れた。
 翌年の二月十六日に、ソーの父親が再び出現して、前回と同じように、息子が霊的感受性が強い子で、しばしば邪霊に唆されていることを述べた後、地上の人間はこの邪霊の影響の実在を正しく理解することがぜひ必要であることを説き、それがスピリットにとっても、気の毒な犠牲者にとっても、悲劇を未然に防ぐ最善の方法であることを力説するのだった。




●ホリスター夫人殺害事件の真相
1906年、シカゴで起きたベッシー・ホリスター夫人の殺害事件の犯人として絞首刑になったリチャード・アイベンスは、事件当時、彼自身の意志ではなく、外部からの影響力の犠牲者であったということは明々白々である為に、精神病学者も犯罪学者も心理学者も、揃ってアイベンスは無罪であると主張し、また催眠暗示の状態での尋問でアイベンスが、知らない人間に唆されてやったと自白している事実を指摘していた。
 確かにアイベンスは、取り調べに際して恍惚状態のような目つきで『図体のでかい奴』が殺せと唆したからやったのだと告白するかと思うと、すぐまた、それを激しい口調で否定する、ということを繰り返していたのである。
 ハーバード大学の心理学教授H・マンスターバーグ博士は、事件のあった年の1906年6月に、次のように書いておられる。
[これは人格分裂と自己暗示の、興味深いケースである・・・十七世紀の魔女達は似たような告白をして焼き殺されたわけである。異常心理についての一般の理解は、魔女狩りの時代から大して進歩していない]
 同じくハーバード大学のウイリアム・ジェームズ教授はこう述べておられる。
[アイベンスが有罪か無罪かはともかくとして、犯行当時に人格分裂状態になったであろうことは間違いない・・・その宿命的な最初の数日間、彼は本来の『自我』ではなく、稀にある人格転換の犠牲者であった。それは、他からの暗示性のものか自発性のものかのいずれかであろうが、先天的にそういう素質をもった人間がいることは、よく知られていることである]
 以下はその後日の話である。


 1907年3月7日
 スピリット=リチャード・アイベンス


スピリットが乗り移ると、霊媒はまるで死んだようにフロアに倒れ込んだ。そして意識を取り戻させるのに三十分もかかった。が、意識が戻っても、
「ほうっておいてくれ。もう一度絞首刑にしたいのか」
と言いながら、しきりに首のあたりの痛みを訴え、とにかく眠らせてくれと言うのだった。
「首がどうかしたのですか」と聞くと、「首の骨が折れている。絞首刑にされて、俺はもう死んだんだ。死んだままにしておいてくれ。生き返ったら、また絞首刑にされる」と言う。
 名前を尋ねると、リチャード・アイベンスだと言うので、「ホリスター夫人を殺害したのは、あなたでしたか」と尋ねると、
「知らない。人は俺がやったと言ってる。しかし、俺がやったとしても、身に覚えがないんだ」
「ではなぜ、自分がやったと言ったかと思うと、すぐに否認したりしたのですか」
「三人のゴロツキがいる時はそう言った。その中の図体のでかいのが俺を見下ろして『言わんと殺すぞ』とナイフで脅したんだ。そいつがいない時は、殺したかどうか記憶がないと言った。警察でもそう言った。看守にもそう言った。聞いた奴にはみな同じことを言った。が、本当のことを言っても信じてもらえなかった。
 ああ、酷い目に遭った!」せっかく死ねたのに、なぜ呼び戻すんだ。なぜそのまま眠らせてくれなかったんだ。また逮捕されて吊るされるじゃないか! 」 
 次の瞬間、恐怖におののいたような叫び声をあげて、
「見ろ!また、あいつだ!手にナイフをもって、側に二人の背の低い奴がついてる。わっ!」
 そう叫んで、膝を抱きかかえる仕草をしながら、
「膝をやられた!膝にナイフを突き刺されたーもう一方もだ!脚を切られた!脚を!あいつは悪魔だ!」
 そこで私が少しずつ事情を説明し、みんなスピリットであること、もう肉体はないのだから傷つくことはないことを得心させてから、「あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのです。そういう精神的な妄想を捨てないといけません。三人の他にもスピリットの姿が見えませんか」と言うと、
「おや、ほんとだ、見えます。私の味方のような感じがする。あれ、ホリスター夫人だ!」
「ナイフを持ってる男に、なぜ追い回すのか聞いてみてください」
「ニタニタ笑ってるだけです」
「なぜホリスター夫人を殺さないといけなかったのか、聞いてみてください」
「女が憎いからだと言ってます」
そう言ってから急に黙り込み、固唾を呑んで何かものすごいシーンを見ている様子だった(マーシーバンドのスピリットが三人を取り押さえた)。
「あの三人を連れて行きました。ものすごい格闘でしたが、ついに取り押さえました」
そう言ってホッとした表情を見せ、
「ヤレヤレです。あの恐ろしい男がいなくなって助かりました」
と言った。そこで私が、ホリスター夫人殺人事件について思い出してみてほしいと言うと、こう語った。
「あの夜、ホリスター夫人を見かけた時、私の目には、あのでかい男の姿も見えて(霊視して)おりました。そのうち妙な感じがしてきたと思うと、首を絞められて意識を失ってしまいました。次に意識が戻ってみると、その男が、夫人を殺したのはこの私だと言うのです。
 その男の姿は一ヶ月程前から見かけていましたが、それがスピリットであるとは知りませんでした。ずっと私をつけていたのです。なぜ、私を生き永らえさせてくれなかったのでしょう?たとえ刑務所の中でも良かったのです。家族には大変な恥をかかせてしまいました。母親に済まない気持ちで一杯です。真相を知ってもらえればという気持ちです。もしも母に会えたら、あれはどうしようもなかったー私は絶対に殺してないと言ってあげたいのです。
 誰も同情してくれなかった。あのでかい男がナイフを持っていた話をしても、誰も信じてくれなかった。あいつが私に自白させたのです。
 本当に私がやったのなら、後悔もします。でも、私には身に覚えがないのです。なのに、なぜ私を処刑したのでしょう?」
 そこで私が、生命の死後存続と高い霊的境涯への向上の話をすると、
「私が死んでないとすると、あの夫人も生きているということですか」
 と真剣になって聞いた。
 「勿論ですとも。きっと今ここへあなたを許しに来ておられるはずですよ。確かにあなたはその方の身体を滅ぼしたかも知れませんが、それはあなたの罪ではありません。邪霊によって催眠状態にされて、彼らの道具にされただけです」
 最初元気のかったアイベンスは、やっと事情が分かって、マーシーバンドの手に委ねられた。そのメンバーの話によると、『でかい男』は子分の二人と共に、地上で『白帽団(ホワイトキャップ)
』という、英米で婦女子ばかりを襲って手足を切断したり殺したりしていた『殺人狂集団』に属していたという。
 それからほぼ三ヶ月後に、その『でかい男』の招霊に成功した。


 1907年6月6日
 スピリット=チャールズ・ザ・ファイター(人呼んで『喧嘩チャールズ』)


 霊媒にかかってきた時は酔っぱらったような態度だったが、目が覚めると暴れ出し、数人がかりでやっと押さえ込むことが出来た。
「人呼んで『喧嘩チャールズ』とは俺のことだ」
 そう凄んでから、まわりにいるマーシーバンドのスピリットに向かって、そこへ自分をおびき寄せた恨みを口走り、つっ立ってないで助けろ、と命令した。
 そのうち落ち着いてきて、私の説明にどうにか耳を傾けるようになった。他人の身体を使って喋っていることを納得させる為に、手を見るように言った。すると片手だけ見て、それが女性の手であることを知って、ひどく狼狽し、
「この手をもってってくれ!もってけ!こんなもの、見たくもない!」
 とわめいた。そこで私が、なぜそんなに怒り散らすのか、そのわけを聞かせてほしいと言うと、
「言うもんか!言うくらいなら死んだ方がましだ!ああ、またあの女の顔が!ダイヤの指輪を取るために切り落とした手も見える!どこへ行っても、その顔と手がつきまとうんだ」
 さらに見回すと、大勢の亡霊に取り囲まれているらしく、
「見ろ!あの顔、顔、顔!ぜんぶ俺が殺したって言うのか?俺を呪いに来やがったのか?見ろ、あいつもいる(アイベンス)。首を吊られたはずなのに、まだ生きてやがる。あの女を殺したのは俺だ。だが、あの男に上手く自白させたはずだ。(私に気づいて)ちょっと待て!コラ、きさま!お前だな、これを企んだのは。あとで覚えてろ!八つ裂きにしてやるからな!」
 そう言いながらも、我々の説得によって、ついに、これ以上の抵抗は無駄であり、強盗と殺人の時代は終わったことを悟った。彼は身の毛もよだつ犯罪の数々を語り、それは女への報復としてやったこと、強盗はウィスキーを買う為の金欲しさであり、ウィスキーを飲むのは良心の呵責を紛らわす為であり、絶えず呪い続ける亡霊から逃れる為だったという。
 彼は、幼少時代は優しい母親の愛を受けて幸せだった。が、その母親が死んだ後、後妻にひどく虐待され、泣く泣く自分の部屋に駆け込んで、亡き母に助けを求めて祈ることの毎日だったという。が、そのことがますます義母の嫉妬心をあおり、気弱な父の抑止も聞かずに彼を殴り続け、二度と実母の名前を言うなと叱りつけたのだった。
 その義母の残忍な暴君的態度が、少年の心に計り知れない恨みの念を植え付け、大きくなったら女という女を皆殺しにしてやるという誓いをさせるに至った。そして、その恐ろしい誓いを着々と実行に移し、全生涯を、主に女性を対象として、残虐な計画と犯行に終始した。
 その彼も、仲間割れの喧嘩で殺されたのだが、この日まで自分が死んだことに気づいておらず、その後もずっと警察を上手くまいて、犯行をきちんと重ねて来たのだと自慢するのだった。
「ところがだ、ボストンでのことだが、警官を殺してやろうと思って、後ろにまわってこん棒で殴りつけたんだが、どういうわけか、空を切って手応えがなかった。そいつは振り返りもしなかった」
 我々やマーシーバンドに取り囲まれて、彼はもう逃げられないと観念したのか、亡霊の呪いから解放されるためなら、どうなっても構わんと言い出し、
「この拷問のような苦しみから逃れられるのなら、地獄にだって喜んで行く」
 とさえ言うのだった。
 私が因果応報の話をし、霊界の素晴らしさについて語るのに素直に聞き入っているうちに、霊的波長に変化を生じたらしく、すぐ側に実母が立っているのが見えた。やはり母親の姿の効果は絶大だった。さすがの非情の極悪人も、椅子の中で縮み上がり、母親の説得の言葉に、哀れにも泣きじゃくるのだった。
 罪の意識と後悔の念がよほど強かったとみえて、彼は、
「僕は行けないよ、母さん。母さんは天国へ行くんだ。僕は地獄へ行くんだ。そこで八つ裂きにされて火で焼かれるんだよ」
 と言いながら、なおも泣きじゃくるのだった。
 しかし、母性愛は負けなかった。さすがの極悪人も、神妙に、母親に連れられてスピリットの世界へと旅立って行った。