バートン夫人の憑依霊1


患者に霊聴能力がある場合は、憑依霊の声がひっきりなしに聞こえるので、それによる苦痛も伴うことになる(いわゆる『幻聴』は精神科医もよく観察していることである)。そういう患者が交霊会に出席して憑依霊が霊媒へ移されると、興味深い現象が生じる。
 その一例として、バートン夫人のケースを紹介しよう。この夫人は霊聴能力があり、そのために憑依霊と絶えず口喧嘩をすることになったが、我々のサークルに出席しているうちに、その有り難からぬ仲間(五名)から解放された。その憑依霊達の性格は、次に掲げる記録によって明瞭に把握できるであろう。

 スピリット=キャリー・ハッチントン
 患者=バートン夫人
 霊媒=ウィックランド夫人
 質問者=ウィックランド博士

博士「お名前を教えてください」
スピリット「手を押さえつけないでくださいよ」
博士「じっとしてないといけません」
スピリット「なぜそんなに手荒なことをするのですか」
博士「名前をおっしゃってください」
スピリット「なぜそんなことが知りたいのですか」
博士「あなたは初めてここへおいでになられた。それで、お名前を知りたいのです」
スピリット「知ってどうなさろうというのです?」
博士「話をする相手が誰であるかを知りたいだけです。あなただって、もしも見ず知らずの人が訪ねてきたら、名前を知りたいとは思いませんか」
スピリット「私はこんなところにいたくありません。あなた達の誰一人として知らないのですから。誰かが私をここへ押し込めたのです。あんな手荒なことをするなんて・・・・入ってきて椅子に腰掛けたら、今度はあなたがまるで囚人のように私の両手をつかむのですから・・・・。なぜこんなところへ押し込めるのですか(マーシーバンドによってウィックランド夫人の身体に乗り移らせられたこと)」
博士「あなたは多分、暗いところにいらしたのでしょう?」
スピリット「誰かに無理矢理ここへ連れて来られたみたい」
博士「それには何かワケがあったんでしょ?」
スピリット「わけなんか知りませんよ。あんな酷い目に遭わされないといけないわけなんか、身に覚えはありません」
博士「なぜそういう扱いをするのか、そのわけは聞かされなかったのですか」
スピリット「その扱いの酷さといったら、ありませんでしたよ。もう死ぬかと思いましたよ。あっちへこっちへ、いたるところへ追いまくられどおしで・・・・。あんまり酷いので、もう腹が立って腹が立って、八つ当たり気分ですよ」
博士「その人達は、あなたにどんなことをしたというのですか」
スピリット「それが、実に恐ろしいのです。私が歩き回ると、酷い目に遭うのです。何だかよく分からないのですが、時には私の全神経が叩き出されるような感じなのです。まるで雷と稲妻に襲われたみたいな時もあります(静電気のよる反応)。それはそれは凄い音です。あの凄い音ーああ、怖い!私はもう我慢できないわ。これから先もあんな目に遭うのは、真っ平ごめんだわ!」
博士「真っ平ごめんと思って頂けるのは、私達にとっては有り難いことです」
スピリット「私は招かれざる客ってわけなの?それならそれで結構よ!」
博士「あなただけ特別というわけではないのですがね」
スピリット「これまで辛い事ばかりでした」
博士「亡くなられてどれくらいになりますか」
スピリット「それはいったい、どういう意味ですか?私は死んでなんかいません。この通りピンピンしております。むしろ若返ったみたいです」
博士「なんだか他人になったような感じがしたことはありませんか」
スピリット「時折妙な気分になることはあります。特に例のものが私を打ちのめす時に。嫌な気分です。こんな苦しみに遭ういわれはないはずです。なぜだか分からないのです」
博士「多分それがあなたにとって必要だからでしょう」
スピリット「好きな時に好きな所へ行けて良いはずなのに、なんだか自分の意志がなくなったみたいです。行こうとしてみるのですが、すぐに誰かが私を捕まえて、ある場所へ押し込め、そこで気を失いかけるほど打ちのめすのです。そうと知っていれば行かないのですが、なんだか私を好きに連れ回す権利をもった人物がいるみたいです(患者のこと)。でも、私の方こそ、その人物を連れ回す権利があるはずだと思うのです」
博士「その女の人とは、一体どういう関わりがあるのですか。あなたはあなたの生き方をするというわけにはいかないのですか」
スピリット「私はそのつもりで生きているのですが、その女性が私の邪魔をするのです。それで私が叱ると、逆に私を追い出そうとするのです。私もその人を追い出そうとします。そんな調子で、大変な取っ組み合いになるのです。私にだってそこにいる権利があるはずなのに、なぜいけないのかが分からないのです」
博士「多分あなたの方が、その人の邪魔をしているのでしょうね」
スピリット「その人はすぐ私を追い出そうとするのです。私は何も迷惑なんかかけていないはずなのに・・・・。ただ、時たま話しかけるだけなのです」
博士「話しかけるのが通じてますか」
スピリット「時たま通じるみたいです。通じるとすぐさま私を追い出そうとするのです。なかなか礼儀正しい方なのですが、カッとなるところがあって・・・・。カッとなると、すぐ例のところへ行くものだから、私は気が遠くなるほど酷い目に遭うのです。とても怖くて・・・・。私の方からその人を連れ出す力はありません。その人の方から私を追い出そうとしているのです」
博士「あなたは、その方につきまとわない方がいいですよ」
スピリット「だって、私の身体なんですからね。あの人のものではありません。あの方にはそこに居座る権利はありません。なぜ私の邪魔をするのかが分からないのです」
博士「あなたの自分勝手な振る舞いに抵抗しているのでしょうよ」
スピリット「私にも生きる権利があるはずですーそうですとも」
博士「あなたは自分が死んだことに気づかないで、これまでずっと一人の女性に取り憑いていたのです。あなたはスピリットの世界へ行くべきで、こんなところをうろついていてはいけません」
スピリット「私がうろついているとおっしゃるんですか?そんなことはありません。誰にも迷惑はかけてはおりません。ただ、少しばかり喋りたいことがあって・・・」
博士「それが『雷』や『酷い目』に遭う原因なのです」
スピリット「最初の頃はなんとか我慢できましたが、最近はとても酷くて・・・・。どうしてこんなことになったのか、少し考えないと・・・」
博士「今、それが分かりますよ」
スピリット「あんな怖いものを止めにしてくれるのなら何でもやります」
バートン夫人「(自分を悩ませていたのは、この霊であることを確認して)私もあなたにうんざりですよ。どなたです、あなたは?」
スピリット「赤の他人ですよ」
バートン夫人「お名前は何とおっしゃるのですか」
スピリット「私の名前?」
バートン夫人「あなたにも名前があるでしょう?」
スピリット「キャリーです」
バートン夫人「キャリー・何とおっしゃいます?」
スピリット「キャリー・ハッチントン」
バートン夫人「どこにお住まいでしたか」
スピリット「テキサス州のサンアントニオ」
バートン夫人「すると、ずいぶん前から私に憑いていたのね」(バートン夫人は永いことサンアントニオに住んでいた)
スピリット「あなたの方こそ私に永い間つきまとってるじゃないの。なぜそんなに私の邪魔をするのか、それだけが知りたいわね。今の私には、あなたの姿がはっきり見えるわ」
バートン夫人「何という通りに住んでましたか」
スピリット「あちらこちらを転々としたわ」
博士「あなたはもう肉体を失っておられるのですが、そのことが実感できませんかね。ずっと病気をなさっていたことは覚えてますか」
スピリット「最後に記憶しているのはエル・パソに住んでいたことです。それ以後のことは何一つ記憶にありません。エル・パソに行ったことまでは覚えておりますが、そこを離れたという記憶はございません。どうやら今もエル・パソにいるみたいです。ある日、大病を患ったことを覚えています」
博士「おそらく、その病気でお亡くなりになったのですよ」
スピリット「エル・パソのあと、どこへ行ったかは知りません。かなり遠くまで行きました。列車で行きましたが、なんだか自分が空っぽになったみたいでした。誰一人話しかけてくれず、私はただその夫人(バートン)のあとを召使いみたいに付いて回りました。不愉快でなりませんでしたけどね」
バートン夫人「あなたはその間ずっと歌い通しだったので、私は気が狂いそうでしたよ」
スピリット「だって、あなたは私の言うことを一つも聞こうとしないから、注意を引くためにはそうでもするほかなかったのですよ。あなたが列車に乗るものだから、私は家からも家族からも遠く離されてしまい、それが辛かったのです。お分かりかしら、この気持ち?」
バートン夫人「あなたの方こそ私の気持ちを理解していないのよ」
博士「ご自分の身の上に何が起きたか、お気づきになりませんか」
スピリット「あの雷みたいなものだけは、もうご免です。私は退散しますよ」
博士「ご自分の身の上をよく理解してください。あなたは今はスピリットとなり、愚かにも人間に取り憑いているのです。あなたにはもう肉体はないということを悟りなさい。おそらくあなたは、重病になられた時にそのまま死なれたのです」
スピリット「幽霊と話が出来るのかしら?」
博士「実際にあることです」
スピリット「私は幽霊なんかじゃありません。だって幽霊じゃ喋れないじゃないの。死んだのなら、その辺に転がっているはずよ」
博士「死ねば肉体はその場に転がっていますよ。しかしスピリットは転がってはいません」
スピリット「スピリットは神のもとへ戻ります」
博士「その神というのはどこにいるのでしょう?」
スピリット「天国です」
博士「天国はどこにあるのでしょう?」
スピリット「イエスさまがいらっしゃるところです」
博士「バイブルには『神は愛なり。愛の中に住める者は神の中に住めるなり』とありますが、その神はどこにいるのでしょう?」
スピリット「天国でしょうよ。とにかく、そういう難しいことは私何も知りません。ただ、あの雷みたいな衝撃のために私が地獄のような苦しみを味わっていることだけは確かです。私にとって何の役にも立っていません。真っ平ご免です」
博士「だったら、この夫人に近づかないことです」
スピリット「今その人の姿がよく見えます。ちゃんとした会話が出来ます」
博士「でしょ?でも、これが最後となることでしょうね」
スピリット「どうしてですか」
博士「この場を離れたら、ご自分が別の人間の身体を使って話していたことに気づかれますよ。その別の人間というのは私の妻のことです」
スピリット「ご冗談を!あなたのことをもう少しは物分かりのいい方と思ってましたが・・・・」
博士「突拍子もないことに思えるのも無理はありませんが、でも、この手をご覧なさい。間違いなく自分の手ですか」
スピリット「私の手ではなさそうですが、このところ変なことばかり起きているものですから、頭の中がこんがらがってるんです。あの婦人のすることは気狂いじみているのです。私はそれに振り回されて、一体何をしようとしているのか、なぜそんなことをするのか、そればっかり考えているのです」
博士「あなたが出て行ってくれれば彼女は喜びますよ」
バートン夫人「キャリーさん、年齢はいくつですか」
スピリット「女性は年齢を言いたがらないことぐらい、あなたもご存知でしょう?」
博士「ことに未婚の方はね」
スピリット「どうかそれだけはご勘弁を。適当に想像なさってください。私の口からは申しませんから」
博士「ご結婚はなさいましたか」
スピリット「ええ、ある男性と結婚しましたが、好きになれませんでした」
博士「その方の名前は?」
スピリット「それは言えません。絶対に口にしたくありません。彼の姓を名乗りたくもありません。私の名はキャリー・ハッチントンーこれが私の本名であり、彼の姓は使いたくありません」
博士「ところで、霊界へ行きたいとは思いませんか」
スピリット「なんという馬鹿げた質問ですこと!」
博士「あなたには馬鹿げたことに思えるかもしれませんが、霊界は実際にあるのです。霊的なことは人間の常識ではバカバカしく思えるもののようですが、実はあなたはもう肉体をなくしてしらっしゃるのです」
スピリット「なくしてなんかいるものですか。私はずっとこの婦人と一緒に行動しているのですが、私の気に食わないことが一つだけあります。それは、食べ過ぎるということで、もりもり食べて元気をつけるものだから、私は力で敵わなくなるのよ。私のしたいように出来ないということです。
(バートン夫人に向かって)あなた、少し食べる量を減らしてよ。私はいつもあれは食べるな、これは食べるなと言ってるのに、あなたはちっとも感づいてないわね。聞こうともしないのだから・・・・」
バートン夫人「私が行きなさいと言っていたのは、ここのことですよ。でもあなたは、どうしても一人では行こうとしなかったわね」
スピリット「分かってますよ。でもあなたは、私をこんな雷の鳴る場所へ連れてくる権利などありませんからね。あんな酷い目に遭うんだったら、一緒になんかいたくないわ」
博士「雷の仕掛けは隣の部屋にあるのですが、少し掛けてあげましょうか」
スピリット「いえ、結構です。もうたくさんです」
博士「だったら、私の言うことをよく聞きなさいよ。言う通りになされば、あんなものは必要ないのですから。いいですか、あなたは何も知らずにいるスピリットなのです。今、置かれている事情を知らないという意味です。あなたはもう肉体を失ったのです。ご自分では気がついていないようですが・・・」
スピリット「そんなことが、あなたにどうして分かるのです?」
博士「あなたは今、私の妻の身体を使って喋っているのですよ」
スピリット「私はこれまで一度もあなたにお目にかかったことがないのですよ。その私があなたの妻だなんて、そんな馬鹿なことがこの広い世の中に有り得ますか。冗談じゃないわ?」
博士「私もそれはご免こうむりますよ」
スピリット「こちらこそ!」
博士「実はこれ以上、私の妻の身体を使って頂くと困るのです。あなたはもう肉体がなくなっていることを悟らないといけません。この手(ウィックランド夫人の手)をご覧なさい。ご自分のものだと思われますか」
スピリット「近頃私の身の上に色々と変化があったものですから、頭が変になりそうなのです。もう、うんざりですわ」
博士「これ!キャリー、いい加減に目を覚ましなさい」
スピリット「私はちゃんと目を覚ましてますよ。そんな言い方は止めてください。さもないと、あなたの聞いたこともないことをある人に言わせてやりますからね」
博士「これ、キャリー!」
スピリット「私はミス・キャリー・ハッチントンでございます」
バートン夫人「キャリー、先生のおっしゃることをよくお聞きなさい」
スピリット「私は誰の言うことも聞く気はありません。きっぱりそう申し上げておきます。あの人になったりこの人になったり。もうこの先どうなっても平気です」
博士「今、あなたは、私の妻の身体を使って喋っていることをご存知ですか」
スピリット「馬鹿なことをおっしゃい!そんな気狂いじみた話は聞いたことがないわ!」
博士「そろそろ分別心を働かせないといけません」
スピリット「分別心?私は立派な分別心をもっておりますけど・・・・。では、あなたは完璧な人間ですか」
博士「もちろん完璧ではありません。私が言ってるのは、あなたはもうスピリットとなっているのに、そのことを理解せずに、身勝手なことをしているということです。あのご婦人をずっと苦しめていらっしゃるのです。それで、例の『雷』を使ってあなたを追い出したわけです。あなたが認めようが認めまいが、今はもうあなたはスピリットなのです。その事実についてあなたは無知でいらっしゃる。素直に言うことを聞かないと、隣の治療室へ連れてって、またあの『雷』を見舞いますよ」
スピリット「あれはもう勘弁してください」
博士「だったら、その態度を改めなさい。生命に死は無いー肉体を失っても人間の目に見えなくなるにすぎないことを、素直に理解しなさい。(あなたからは私達が見えても)私達からは、あなたは見えてないのですよ」
スピリット「私はお二人とは何の関係もございませんので・・・・」
博士「私達はあなたの力になってあげたいのです。なんとかして今の身の上の真実を分からせてあげたいと思っているのです」
スピリット「お力添えは無用ですよ」
博士「どうしても言うことを聞かないとなったら、高級霊の方達に連れて行って頂いて、牢に入れてもらいますよ」
スピリット「私に脅しをかけるつもりなのね!そんなことをしたら、あなたこそ酷い目に遭いますよ。覚えてらっしゃい!」
博士「その意固地な態度を改めなさい。あたりをご覧なさい。あなたに気づいてもらおうと思っている人が目に入るでしょう?その人を見たらあなたは泣き出すでしょうよ」
スピリット「私が泣いたりなんかするものですか。反対に歌い出しちゃいますよ」
博士「お母さんは、今どこにいますか」
スピリット「永いこと会っておりません。え、母ですか?ああ、母ね!母ならもう天国へ行ってますよ。立派な女でしたからね。今頃は神と聖霊と、その他もろもろの人達と一緒にいることでしょうよ」
博士「あたりを見回してご覧なさい。そのお母さんがいらっしゃいませんか」
スピリット「ここは天国じゃありませんよ。とんでもない!もしもここが天国だったら、地獄より酷いところですよ」
博士「お母さんを探し出すことです。今のあなたの恥ずべき状態を聞かせてくれますよ」
スピリット「私は何も恥ずべきことはやっておりません。一体なぜ私にあんな雷なんか落としたり牢へ入れたりなさるんです?私はそこのご婦人と話し合って取り決めたことがあるのです」
博士「この方は私のところへ来られて、あなたを取り除くための取り決めをなさったのです。そこで電気仕掛けで、あなたをこの方の身体が追い出したというわけです。もうこの方はあなたの仲間ではありません」
スピリット「そうね、みんなしばらく私から離れちゃったわね(憑依霊のこと)。見当たりませんもの。あの背の高い男をなぜ追い出したのですか」
博士「それは、自分の身体が大事だからですよ。地縛霊に苦しめられたくはありませんもの。あの連中と一緒がいいのですか」
スピリット「あなたのおっしゃってることの意味が分かりません」
博士「あなたはご自分がこの婦人を悩まし、地獄のような毎日を送られていたことがお分かりになりませんか」
スピリット「(バートン夫人に向かって)私はあんたを悩ませてなんかいませんよ」
バートン夫人「今朝だって私を三時に起こしたじゃありませんか」
スピリット「あなたに寝る資格はないわよ」
博士「あなたはあなたなりの生き方をしなきゃダメです」
スピリット「そうしてるつもりです」
博士「言うことを聞かないと暗い牢の中で暮らすことになりますよ」
スピリット「どうしてそんなことが言えるのよ?」
博士「あなたに、いつまでもそのままでいてくれては困るのです。もっと素直になって助けを求めた方が身の為ですよ。私は妻と共にこの仕事を何年もやってきました。妻はこうやっていろんな性格のスピリットに身体を使わせてあげて救ってあげているのです」
スピリット「(皮肉っぽく)まあ、立派な奥さんですこと!」
博士「恥を知ることも大切です。いかがです、お母さんの姿が見えませんか」
スピリット「見たいとも思いませんね。天国から呼び戻すこともないでしょう」
博士「天国というのは、『幸せである状態』のことですから、あなたのような娘がいては、お母さんも天国なんかにいる心地はしないでしょうー幸せにはなり切れないでしょう。いかがです、もしもあなたが天国にいて、地上に一人の娘がいて、その娘が今のあなたのような状態でいるとしたら、あなた平気でいられますかね」
スピリット「私はへそ曲がりではありません!私のどこがいけないというのですか。おっしゃってください!」
博士「それはもう言いました。あなたは私の妻の身体に取り憑いているのです」
スピリット「私にどうしてそんなマネが出来るというのです?」
博士「物質の法則を超えた霊的な法則があるのです。そして今はもうあなたは一個のスピリットなのです。スピリットや精神は肉眼では見えないものです。あなたはわがままで、物事を理解しようとなさらないけど・・・・」
スピリット「ここは天国なんかじゃありません」
博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」
スピリット「お願いだから冗談はやめてよ!私はどうやってここに来たのかしら?」
博士「こちらの婦人に取り憑いてきたのです。そういうわけです。おかげでこの方は、あなたを取り除くために、あの雷を受ける羽目になったのです」
スピリット「お馬鹿さんですね、そんなマネをするなんて」
博士「なんとしてもあなたに離れてもらいたい一心からなのです。なんとしても離させるでしょうよ」
スピリット「あの雷だけはもうご免こうむります」
博士「素直に言うことを聞かないと、高級霊の方達があなたの嫌がるものをお見せしますよ」
スピリット「(ある幻影に怯えて)それだけは止めて!」
博士「お望みではなくても、こうするしかありません」
スピリット「そんなのないわ!」

どうしても理解させることが出来ないので、このスピリットはマーシーバンドに引き取ってもらった。

スピリット=ジミー・ハンチントン
患者=バートン夫人

霊媒に乗り移るとすぐ両足の靴を蹴って脱ぎ捨て、ひどくイラついている様子。
博士「どうなさいました?何か事故にでも遭ったのですか。(霊媒の両手をしっかりと押さえて)靴を履いていませんね?」
スピリット「今脱いだんだ!」
博士「お名前を聞かせて下さい」
スピリット「名前なんか知らんよ」
博士「どちらからおいでになりました?」
スピリット「そんなこと言う必要ないね」
博士「ぜひお名前を窺いたいものですな。どうなさったんですか。どうもご機嫌がよろしくなさそうですな」
スピリット「よくないね」
博士「このところ何をなさってましたか」
スピリット「何もしてないよ。ただ歩き回っているだけだ」
博士「その他には?」
スピリット「そうさな、特にこれといって、別に・・・・どこかに閉じ込められたみたいな気がするな」(バートン夫人のオーラの中のこと)
博士「どんな具合に?」
スピリット「それは分からんが、とにかく出られなくなってしまった」
博士「もっと詳しく説明してくれませんか」
スピリット「説明なんかできんよ」
博士「誰かが話をしているのが聞こえましたか」
スピリット「ああ、大勢の人間が喋ってたな」
博士「どんなことを言ってましたか」
スピリット「あれこれ、好きなことを言ってたね。みんな自分が賢いと思ってるんだよな」
博士「あなたにも話すチャンスはあったのでしょ?」
スピリット「あったけど、いつも一人の女がいて、そいつが俺の言おうとすることを全部先取りするもんだから、頭に来たよ。俺にだって喋るチャンスをくれてもいいと思うんだ。みんなが喋ると、その女が喋り出すんだな。いったん女が喋り出すと、男には口を挟むチャンスはないよ」
博士「結婚はなさってましたね?」
スピリット「勿論さ。結婚してたよ」
博士「うまくいってましたか」
スピリット「どう言えばいいのかな・・・・ま、言い訳はよそう。あまり幸せだったとは言えないね。女はいつも喋り過ぎるんだよ。男をそっとしておくということが出来ないんだな」(ここでいう『女』とは憑依霊のこと)
博士「何のことを喋っていましたか」
スピリット「例の女はよく喋る奴でね。のべつ喋りまくるんだ(バートン夫人はいつも独り言を言い続けていた)。少しの間も黙ってはいられないんだな。大人しくさせてやりたい気持ちに何度かなったけど、そのうち新参者が入ってきて、また喋りまくるんだ。もう嫌になってね。それで俺は出て来たんだ。あんなひどい連中はいないよ」
博士「何か変わったことでも起きたんですか」
スピリット「頭のまわりで稲光がして、それきり自分がどこにいるのか分からなくなった(バートン夫人に電気療法を試みた)。遠くで光ったと思ってたんだが、それが見事にこの俺様に命中しちゃってさ!」
博士「その瞬間どうしようと思いましたか」
スピリット「稲妻を取っ捕まえて、俺の頭に当たらないようにしてやろうと思ったんだけど、ことごとく命中するんだな。一度も当たり損ねがないんだ。稲妻というのは、そういうもんじゃなかったーそう滅多の当たるもんじゃなかった。が、今度のは、みな当たるんだ。こんなの初めてだ。今もあんたの目の前にチラチラするものが見えて、おっかなくて仕方が無いが、あの女は稲光がしている時でも平気で喋り続けるんだから・・・・」(バートン夫人は電気治療を受けている間でも独り言を言い続けていた)
博士「どんな話をするんですか」
スピリット「下らんことさ。あの女はボスでありたいだけで、俺もボスでありたいから、結局二人が一緒にいることになってしまう」
博士「その女性はどんなことを喋るのですか」
スピリット「女がどういうものか、あんたもよく知ってるはずだ。とにかくよく喋るんだなぁ。どうしようもないよ」
博士「その人からあなたに話しかけることがありますか」
スピリット「もう、のべつ悩まされ通しさ。なんとかして黙らせたいんだけど、これ以上俺には力が出せそうにないよ。そう思ってるうちに別の女が出て来て、同じように喋り始めるんだ。もう、うんざりだよ。女を黙らせるいい方法を知らんかね?たとえご存知でも、手こずるだろうよ」
博士「あなたのお名前は?」
スピリット「永いこと呼ばれたことがないね」
博士「どちらから来られましたか。今カリフォルニアにいらっしゃるんでしたかね?」
スピリット「いや、テキサスだ」
博士「子供の頃、お母さんはあなたのことを何と呼んでましたか」
スピリット「ジェームズが本当なんだが、みんなジミーって呼んでた。それにしても、この俺は、一体どうなってるんだろうな、まったく!あの雷が俺の膝から足へ、頭から足へと当たりやがる。とにかく合点がいかんのは、必ずこの俺に命中するってことだ」
博士「今、おいくつですか」
スピリット「ま、五十ばかりになる男性と言っておこう。ただ、この年齢になるまで、あんな稲妻は見たことが無いし、なんとしても理解できないのは、その稲妻が当たっても、何一つ燃えたためしがないということだ。
 それにしても、昨日もいつもの寝所に入ったんだが、あんなにひどい夜はなかったね。どいつもこいつも、悪魔ばかりだった(憑依霊のこと)。今もあそこに一人立ってるが、あれは、昨日来た奴だ」
博士「ジミー、死んでどのくらいになりますか」
スピリット「それはどういう意味かね?」
博士「つまり肉体を失ってからどのくらいになるかということです」
スピリット「肉体を失ってなんかいないよ」
博士「どうも感じが変だということを感じたことありませんか」
スピリット「ずっと変だよ」
博士「テキサスで石油関係の仕事に携わったことはありませんか」
スピリット「どこで働いていたかよく分からん。とにかく何もかも変なんだ」
博士「どういう仕事場で働いていましたか」
スピリット「鍛冶屋だ」
博士「今年は何年だかご存知ですか」
スピリット「いや、知らんね」
博士「この秋の選挙はどうしますか。誰に投票するつもりですか」
スピリット「まだ分からんね」
博士「今の大統領をどう思われますか」
スピリット「好きだね。なかなかやるんじゃないかな?」
博士「大統領について何か特別に知ってることがありますか」
スピリット「彼はいい。ルーズベルトは一点非のうちどころがないよ」
博士「では、ルーズベルトが大統領なんですね?」
スピリット「無論、そうさ。当選したばかりだ。マッキンレーも中々の人物だったんだが、マーク・ハンナが彼を牛耳ってたな。が、俺はもう随分永いこと政治のことには関心がないよ。それに、あの女に黙らされてるしね。四六時中喋りやがって、俺はもう気が狂いそうだよ」
博士「そんなに喋るのは、一体どういう女性なんでしょうね?」
スピリット「あんたにはその女が見えないのかい?」
博士「ここにいないのでは?」
スピリット「いや、いるとも。ちゃんといますよ。その人だよ」(バートン夫人を指差す)
博士「どういう話をするのですか」
スビリット「下らんことばかりさ。もう、うんざりだよ」
博士「特にどんなことを言ってますか」
スピリット「これといって、特にないね。あいつにはセンスというものがないんだよな。時折この俺を小馬鹿にすることがある。いつか仕返しをしてやるつもりだ。それにしてもしぶといよ、あいつは・・・・」
博士「ところで、あなたは今どういう状態にあるのか、その本当のところを知って頂きたいと思うのですが。実はあなたは肉体を失って、今はスピリットになっておられるのですよ」
スピリット「俺にはちゃんと肉体はあるよ」
博士「その肉体はあなたのものではありませんよ」
スピリット「じゃあ、誰のだ?」
博士「私の妻のものです」
スピリット「冗談も休み休み言ってくれよ!俺があんたの奥さんだなんて!男がどうして女房になれるんだよ。バカバカしい!」
博士「あなたは今はもうスピリットなのです」
スピリット「スピリット?幽霊(ゴースト)だって言うのかい?馬鹿もいい加減にしてくれよ!」
博士「スピリットもゴーストも同じことです。」
スピリット「ゴーストがどんなものか、スピリットがどんなものか、俺はちゃんと知ってるよ」
博士「どちらも同じです」(と霊媒の手を取りながら言う)
スピリット「おい、おい、男が男の手を握るのは、やばいよ。どうせ握るのなら、どこかのご婦人にしなよ。男同士は手を握り合わないものだ。ぞっとするぜ」
博士「その女性は何と言ってるんでしょうね?」
スピリット「ただ喋りまくるだけで、ロクなことは言ってないよ」
博士「若い方ですか、年を取っていますか」
スピリット「そう若くはないね。俺は見ただけで胸がむかつくんだ」
博士「あなたが今はもうスピリットであると私が言ったのは、ありのままの事実を申し上げてるんですよ」
スピリット「では、この私がいつ死んだというのだね?」
博士「かなり前のことに相違ないでしょうね。ルーズベルトが大統領だったのは、もうずいぶん前の話ですから。ルーズベルトも今ではあなたと同じスピリットになっています」
スピリット「俺と同じ?おい、おい、彼は死んだと言うのかい?」
博士「あなたも死んだのです」
スピリット「こうしてここにいて、あんたの言うことが聞こえている以上、死んでるはずがないじゃないか」
博士「あなたは肉体を失ったのです」
スピリット「おい、おい、そんなに手を握らんでくれよ。気持ちが悪いよ」
博士「私は、私の妻の手を握っているのです」
スピリット「奥さんの手を握るのは勝手だが、俺の手は離してくれよ」
博士「この手があなたのものだと思いますか」
スピリット「これは俺の手じゃない」
博士「私の妻の手ですよ」
スピリット「でも、俺はあんたの奥さんじゃないからね」
博士「あなたは私の妻の肉体を一時的に使用なさっているのです。ご自分の肉体は、とうの昔になくしておられるのです」
スピリット「どういう具合にしてそういうことになっちゃったのかね?」
博士「私には分かりません。あなたはここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」
スピリット「冗談じゃない、どうして俺がカリフォルニアなんかに来れるんだ?まったくの文無しだったのに。
 あのね、今ここに二人の女性がいるんだが、一人はあまり喋らない。どうやら病気らしい(バートン夫人に憑依している別のスピリット)。多分もう一人の女がやたらに喋るもんだから、あんたもこんがらがっちゃったのだろう。
 頼むから、俺の手を握らんでくれんかな。窮屈で仕方が無いよ。どこかのご婦人と二人きりというのなら話は別だけどな。両方の手を握らないと気が済まないのかね?」
博士「大人しくしないから、両手を握らざるを得ないので。さ、これ以上時間を無駄にするのは止めましょう」
スピリット「俺も、時々、両手を遊ばせておれないほど忙しくなりたいと思うことがあるよ」
博士「では、仕事をあげましょう」
スピリット「ほんとかね、それは?そいつは有り難い。何でもいいから仕事をくれれば嬉しいね。馬に蹄鉄を打つ仕事なんかどうかな?俺は昔は蹄鉄を打つ仕事をやってたんだ」
博士「どこの州で?」
スピリット「テキサス。でかい州だよ」
博士「ずいぶん放浪したんじゃないのですか?」
スピリット「うん、相当な。ガルベストン、ダラス、サンアントニオ、その他随分行ったな」
博士「あなたは今はもうスピリットとなっていて、少しの間だけ私の妻の身体に宿って話をすることが許されているのです。私達には、あなたの身体は見えてないのです」
スピリット「おい、おい、あの鬼みたいな連中を見ろよ。まるでいたずら小僧みたいに跳ね回ってるよ(憑依霊のこと)。みんなあの婦人(バートン夫人)を取り囲んでいるよ」
博士「あなたがどいてくれれば、連中もみんな一緒に片付くのですがね」
スピリット「ご免だね、それは。(ネックレスに触りながら)何だ、こりゃ?」
博士「私の妻のネックレスですよ」
スピリット「あんたの奥さん?」
博士「このたびは、あなたにぜひ知って頂きたいことがあってお連れしたのです。あなたは例のご婦人から火であぶり出されたのです」
スピリット「いかにも。稲妻でな。あんなにひどいのは見たことが無い。テキサスでもアーカンソーでも、雷と稲妻のお見舞いはよく食らったものだが、今度みたいに、光る度に直撃を食らうことはなかったんだが・・・」
博士「もう、これからは雷も稲妻もありませんよ」
スピリット「本当かね?そいつは有り難い」
博士「お母さんはテキサスにお住まいでしたか」
スピリット「そうだ。だが、もう死んじゃったよ。葬式に立ち会ったから間違いないよ」
博士「それは、お母さんの肉体の葬式に立ち会ったということで、お母さんの霊、魂、ないしは精神の葬式ではありませんよ」
スピリット「母は天国へ行ったと思うね」
博士「見回してご覧なさい。お母さんの姿が見えませんか」
スピリット「どこに?」
博士「この部屋にですよ」
スピリット「ここは、一体どこなんです?俺があんたの奥さんだと言われても、俺はあんたには一度も会ったことがないからね」
博士「あなたは私の妻ではありません」
スピリット「でも、さっき俺のことをそう言ったじゃないか」
博士「あなたが私の妻だと言ったのではありません。あなたは今、一時的に私の妻の身体を使用していると言ったのです」
スピリット「まいったね、これは。一体、どうやったら奥さんの身体から出られるのかね?」
博士「私の言うことをよく聞きなさい。いたずら小僧達は何と言ってますか」
スピリット「このまま留まりたいと言ってるね。だが俺は、みんな一緒に出るんだと言い聞かせてるんだ、大声でね」
博士「やっぱり一緒に出てほしいでしょう?」
スピリット「まあね」
博士「彼らに心を入れ替えさせて、自分が今どんな状態にあるかを分からせることによって、あなたは彼らを大いに救ってあげることになるのです。彼らは助けが必要なのです。あなたも含めて、みんな本当の事情が分からずに、あの婦人に迷惑をかけていたのです。みんなスピリットの世界へ行って、どんどん向上できるのです」
スピリット「あのご婦人も行くのかな?他にも随分いるよ。まるで集団だよ。でも、俺はそのうちの一人として知ってる奴はいないね」
博士「誰か顔見知りの人が見当たりませんか。少し落ち着いて、じっくり見てご覧なさいよ」
スピリット「(興奮ぎみに)おや、ノラがやってきた!」
博士「どういうご関係ですか」
スピリット「ノラ・ハンチントンー俺の妹だよ」
博士「あなたの名前がジミー・ハンチントンじゃないか、尋ねてみなさい」
スピリット「そうだと言ってる。ずいぶん久しぶりねとも言ってる。(急に戸惑いながら)待てよ、妹は死んだはずだが・・・・」
博士「妹さんに事情を聞いてごらんなさい」
スピリット「一緒においで、なんて言ってるけど、一体どこへ行くんだろう?」
博士「何て言ってますか」
スピリット「霊界だとよー信じられんな、あいつの言ってることは・・・・」
博士「妹さんは嘘をつく人だったんですか」
スピリット「そんなことはないよ」

博士「だったら、今だって嘘をつくはずはないでしょう?」
スピリット「俺を随分探したけど、どうしても居場所が分からなかったと言ってる」
博士「妹さんは今までどこにいたんでしょうね?」
スピリット「あいつはもう死んでるんだ。俺はあいつの葬式に出たから間違いないよ。生き埋めにされたのではないことは確かだ」
博士「あなたが出席したのは妹さんの肉体の埋葬式で、霊魂は埋葬されてはいませんよ」
スピリット「じゃあ、あれは妹のゴーストというわけ?」
博士「妹さんはしっかりしたスピリットになっておられるはずですよ。そのあたりのことは私から言うよりも、妹さん自身から聞いてごらんなさいよ」
スピリット「『一緒に行きましょう、あの大勢の人達もお連れしましょうよ』と言ってる。今は使節団の一人になって、救える人なら誰でも救ってあげてるらしい。不幸な人達を救ってあげてるんだそうな。俺もその一人ってわけだな?」
博士「例のおしゃべりの女性にも一緒に行くように言ってあげてください」
スピリット「出てしまうと身体がなくなってしまうと言ってるよ」
博士「こう言ってあげてくださいー肉体の代わりに霊体というのがあり、もう肉体はいらないのだと。そして、一緒についてくれば幸せになる方法を教えてくれる人がいるということもね。例のいたずら小僧達も連れてってくださいよ」
スピリット「全部は無理だよ。第一、みんなついてくる気になるかどうかも分からんしね」
博士「今よりも幸せになれることを実際に示してあげれば、ついていく気になるでしょう。多分あの人達は、生涯に一度も幸せになれるチャンスがなかったのでしょうからね」
スピリット「俺だってこんなことは思いもよらなかったことさ」
博士「ですから、全面的に彼らを咎めるつもりはありませんよ。もっともっと幸せになる生き方があることを教えてあげれば、みんなついてきますよ」
スピリット「では、一体ここはどこですか」
博士「カリフォルニアです」
スピリット「カリフォルニアのどこですか」
博士「ロサンゼルスです」
スピリット「あんたがロサンゼルスにいるからといって、俺もロサンゼルスにいるとは限らないだろう?」
博士「今ここにいるのに、他のどこに存在できるのですか」
スピリット「それも一理あるな。テキサスのダラスにいたことまでは覚えてるよ。たしか馬に蹄鉄を打ってた時に後頭部をぶたれたんだ。奴は俺を殺したってわけか?」
博士「殺したというか・・・・要するに、あなたを肉体から離れさせたわけです。死んで消えてしまう人はいません。さ、早く行かないと妹さんが待ちくたびれますよ」
スピリット「行けるものなら今すぐ行ってもいいが、歩いて行かなきゃならないじゃないか」
博士「歩いて行く?私の妻に宿ったまま?あなたに是非新しいことを勉強してほしいですね。妹さんと一緒にいる、と念じるだけでいいのです。次の瞬間には妹さんのところへ行ってますよ。思念で進むのです」
スピリット「へえ、そいつぁいいなあ」
博士「さあ、これ以上その身体に留まっていてはいけません」
スピリット「面白い言い方をしましたな」
博士「私の妻の身体ですからね」
スピリット「この身体から出たあとは、どんな身体を使うのかね?」
博士「霊体ですよ。私達の肉眼には見えないのです」
スピリット「この身体から飛び出して、うまくその霊体に入れるのかね?」
博士「妹さんが教えてくれますよ。妹さんと一緒にいると、念じるだけでいいのです。肉体はいらないのです」
スピリット「なんとなく眠気をもよおしてきたな」
博士「妹さんについていって、色々教わりなさい。スピリットの世界について新しいことを色々教えてくれますよ。例の仲間の人達も連れてってやりなさい」
スピリット「(仲間に向かって)おい、お前達、俺についてくるんだ。みんなだぞ」
博士「ついてきそうですか」
スピリット「大丈夫です。さ、お前達、ついてくるんだ!では、さようなら」


 その後の招霊会に『ハリー』という名のスピリットが出現して、バートン夫人を悩ませているもう一人の憑依霊について、興味深い話をしてくれた。

博士「どちらからおいでになりましたか」
スピリット「今どこにいるのかも分からんのです。自分がどうなっているのかも分からんのです」
博士「事情を知りたいのですか」
スピリット「何がどうなっているのかが分からんのです」
博士「何かあったのでしょう?」
スピリット「それを知りたいくらいです」
博士「最近は何をしてましたか」
スピリット「分かりません」
博士「お名前を教えて下さい。名前くらいご存知でしょう?」
スピリット「そりゃ、まあーええと、知ってると思うんだけど・・・・」
博士「ここはどこだと思いますか」
スピリット「知りません」
博士「いえ、ご存知のはずです」
スピリット「知りません。何もかもが変で、何がどうなってるのか、さっぱり分かりません」
博士「振り返ってごらんになって、何か思い当たることがありませんか」
スピリット「振り返るったって、背中に目がついてないもんで・・・・」
博士「思い出してみなさいという意味です」
スピリット「背中のことをですか」
博士「いいえ、過去のことをです。考える力を働かせてごらんなさいよ」
スピリット「何も分かりません」
博士「そんなに考え不精では困りますね」
スピリット「人間に何が出来るんでしょうね?」
博士「この肉体は女性ですが、あなたは男性ですか女性ですか」
スピリット「男性ですよ。あの人も男性で、他の人達は女性です。私はずっと男性です。女性になったことなんか一度もありません。これからもなりません。私は男ですとも」
博士「その手をごらんなさい。そんな手をどこで仕入れられましたか?」
スピリット「これは私の手じゃない」
博士「足をご覧になってください」
スピリット「これも私のものではない。私は女になったことなんかない。手も足も女のものはご免だ。他人の身体なんか借りたくないね」
博士「年配の方でしょうか」
スピリット「ガキじゃないよ」
博士「年齢はどうやらおありのようですが、知識がないようですな」
スピリット「ないね。大した知識があるとは思ってない」
博士「知識がおありであれば、こんなことにはならなかったでしょうからね」
スピリット「それとこれとは別だ」
博士「あなたに一番欠けているのは知識なのです。お名前を教えて下さい。メアリーでしたかね」
スピリット「メアリーなんて名の男がいるもんですか。滑稽な」
博士「だから教えてくださいよ、お名前を。私は当てずっぽうを言うしかないのですから・・・・」
スピリット「男ですよ。男の名前ですよ。女じゃないよ」
博士「さ、自己紹介を」
スピリット「一体何の為に名前を言わなきゃいけないのですか」
博士「口は達者のようですね。髪の毛は白髪でしたか」(ウィックランド夫人は白髪)
スピリット「白髪でした」
博士「カールしてましたか。その髪はカールしていますが・・・・」
スピリット「そんなはずはない。カールした髪は嫌いなんだ」
博士「クシをさしておられたのですか」
スピリット「髪にクシをさした男なんて聞いたことがない」
博士「その結婚指輪はどこで手に入れられましたか」
スピリット「盗んで来たみたいな言い方をしないでほしいね。俺の手は女じゃないんだ」
博士「ジョン、生まれはどこですか」
スピリット「俺はジョンじゃない」
博士「奥さんはあなたのことを何と呼んでましたか。お母さんはあなたをどう呼んでましたか」
スピリット「母はハリーと呼んでたな。結婚はしていない」
博士「姓は?」
スピリット「女ばっかりいるところで名前を言う必要はないだろう」
博士「男性も少しはいますよ」
スピリット「一体何故、こんな女ばっかりのところに連れて来るんだ?」
博士「失恋なさったようですね?」
スピリット「そんなことを女どもに言うほど馬鹿じゃないよ」
博士「彼女はなぜもう一人の方を選んだのでしょうね?」
スピリット「彼女って誰のことだ?」
博士「あなたを捨てた女性ですよ」
スピリット「違う、そんなんじゃない!」
博士「失恋なさったんじゃないのですか」
スピリット「違う!」
 博士「じゃあ、なぜそんなに女性を嫌うんですか」
スピリット「こんなに大勢の女の前で秘密が言えるもんか。笑われるのがオチだよ。一体なぜ、この女達が俺をジロジロ見てるのかが知りたいね。あそこにいるあの男、あいつはどうしたんですか。あの婦人(バートン夫人)の後ろにいるあの男のことだよ」
バートン夫人「あたしは男嫌いでしてね。男には近づかせませんよ」
スピリット「なぜあの男は彼女のそばにいるのかな。彼女の旦那かな?奥さん、あの男はなぜあんたにつきまとってるんです?あんたがどうかしたんですか。よっぽど彼氏のことが好きで、それで彼があんたから離れられないんでしょうかね?」
博士「死んでどれくらいになるのか、その男に聞いてみてください」
スピリット「嫌な奴だね。俺はおっかないよ。今にも喧嘩をふっかけられそうだ」
博士「死んでどれくらいになるのか、聞いてみてください」
スピリット「死んで?彼女にぴったりくっついていて、彼女が動くと彼も動いてる。まるで猿まわしだ」
バートン夫人「彼も一緒に連れてってくれませんか」
スピリット「なぜこの俺が?俺はあんな男は知りませんよ。奥さん、あの人が好きなんじゃないですか」
バートン夫人「とんでもない。うんざりしてるんですよ」
スピリット「一体どうなってるのかな?あんたの旦那さんですか」
バートン夫人「違います。なぜつきまとうのか、あたしにも分からないのです」
スピリット「あんたは彼のこと好きなんですか」
バートン夫人「とんでもない!逃げ出したいくらいですよ」
スピリット「ここは一体どこですか」
博士「カリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「彼女にはもう一人、女もつきまとってるな。ぴったりくっついてる」
バートン夫人「あなたに力になって頂きたいのです。その人達をみんな連れ出して頂きたいの」
スピリット「つきまとってるあの男、あんた好きなの?」
バートン夫人「とんでもない!逃げようと思って必死なのよ。ドアは大きく開けてあるから、いつでも出て行けるわ」
スピリット「冗談じゃない、ドアは閉めといた方がいいよ。あんなのにつきまとわれるのはご免こうむるよ。警察を呼んだらどう?嫌な奴だと思うのなら、警察に連れ出してもらうんだな」
博士「みんなスピリットなのです」
スピリット「スピリット?」
博士「そうです。あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「へえ、あの女の後ろに立っている男、あれがゴーストだって言うつもり?」
博士「見えますか」
スピリット「あいつはスピリットなんかじゃない、立派な人間だ。ちゃんと立ってるもの」 
博士「彼もスピリットなんだけど、そのことが悟れずにいるのです。彼女には彼の姿が見えないし、我々にも見えません」
スピリット「ここは、一体どういうところなんです?」
博士「あなたも、我々には見えてないのです」
スピリット「見えてない?声は聞こえますか」
博士「声は聞こえますが、姿は見えません」
スピリット「目が開いているのに見えない人の集まりというわけか。俺には全部見えるんだが・・・。この部屋は人でいっぱいだ」
博士「声が聞こえるといっても、女性の口を通して聞こえてるだけですよ」
スピリット「冗談はよしてくれ。俺が女の口で喋ってるだって?とんでもない!ただ、今の自分が一体どうなってるのかが分からんのです。なぜこんなところにいなきゃならないのかが分からんのです。あんた達からジロジロ見られてるし、他にも大勢の者が立って見つめている。あいつらも話は出来るのかね?」
博士「説明しますから、よく理解してくださいよ。まず第一に、あなたは、いわゆる死んだ人間なのです」
スピリット「この俺が死んだ人間?こりゃ、いいや」
博士「あなた自身が死んだわけではありません」
スピリット「でも、今、俺のことを死んだ人間と言ったじゃないか」 
博士 「家族の者や知人にとっては死んだ人間となってしまったということです。でも、今度は霊体があります。あなたにはちゃんと自分という意識がある。そして、霊体をもっておられる。その辺の事情がまだお分かりになれないだけなのです」
スピリット「随分歩き回ったことは覚えてる。どこまで歩いても行き着くことがない。それが今は、こうして大勢の人間の前にいる。知らないうちに明るいところへ来ていた。気がついたら、みんなが輪になって祈っている。それで足を止めた。そして、いつの間にか喋り始めていた。それまでは何も見えず、疲れ果てていたのに・・・・」
博士「今あなたに見えている人達のほとんどが、あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「何のためにこんなところへ?」
博士「あなたの身の上を理解して頂くためです。あなたは今、私の妻の身体を使っておられるのです。あなたが私の妻だというのではありません。私の妻の身体に宿っておられるのです。あなたにはとんでもないことに思えるでしょうけど、でも事実なのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。私の妻の口を使って喋っているのです。先ほどあなたが気にしていた男の人も、スピリットなのです。あなたが行かれる時に、一緒に連れてってあげてください。あの人も私達には姿は見えてないのです」
スピリット「叩きのめしてやりたいね、奴を」
博士「バイブルはお読みになったことがありますか」
スピリット「ああ、あるとも、ずっと昔ね。もう、随分永いことお目にかかってないけどね」
博士「イエスが、取り憑いていた悪霊を追い出した話を覚えていらっしゃいますか。その男もこの女性(バートン夫人)に取り憑いているのです」
スピリット「他にも何人かいますよ」
バートン夫人「もう誰も入れないようにしてますからね」
スピリット「厳重に戸締まりをしてくれれば、俺があいつらを連れてってあげるよ。だけどあいつだけは、叩きのめしてやりたいね。おい、名前は何て言うんだ?」
博士「何て言ってます?」
スピリット「ジム・マクドナルドだそうです。奥さん、そんな名前の人間を知ってますか。あいつがスピリットなら、なぜ嫌われている女につきまとうのかな?」
博士「あなたと同じように、あのスピリットもここへ連れてこられたのですよ。あなたも、明かりが見えて、気がついたらここへ来ていたわけでしょう?」
スピリット「暗がりを歩いているうちに、あの婦人が見えたと言ってます。俺もこのままずっと、ここにいなきゃなりませんか」
患者の一人「私の周りにいるスピリットの名前を聞いてくださらない?」
スピリット「二人いるね。時々喧嘩してる。今も喧嘩してるよ」
患者の一人「私も喧嘩するのよ」
博士「腕ずくで喧嘩してはいけませんよ。スピリットにエネルギーと磁場をやることになりますから。心の中で喧嘩するのです。それよりも、いい加減あなたもおしまいにしては?」
スピリット「この俺にできることなら、あの人達を連れてってもいいです。もう二度と喧嘩しないのなら、ですけどね。それにしても、一体この俺はどうなってるんですかね?どうも変な気分です」
博士「お家はどこでしたか」
スピリット「ミシガン州のデトロイトです」
博士「記憶にある年代は?」
スピリット「何も思い出せない」
博士「大統領の名前は?」
スピリット「よく覚えてないけど、たしかクリーブランド(第二十四代・1893〜97)だったと思う」
博士「彼は随分昔の大統領ですよ」
スピリット「随分歩きっぱなしで、疲れたよ。横になって休むベッドはありませんか」
博士「あたりをご覧になれば、立派なスピリットが大勢来ているはずですよ」
スピリット「なるほど。奇麗な女の子が何人かいる。これ、女達、その手には乗らんからな。一緒に行く気はないね。とんでもないこった!」
博士「あなたの知ってる女性とはワケが違います。人間ではなくて、スピリットですよ」
スピリット「なんだか男を誘惑するような目つきで、ニコニコしてるよ」
博士「そんなんじゃありませんよ。迷ってる人に援助の手を差し延べようとしている方達ですよ」
スピリット「あの娘達は真面目そうだが、俺は女は嫌いでね」
博士「たった一人の女性にダメにされたからといって、女性全部を悪く言うべきではありませんよ」
スピリット「よし、この連中を全部連れてってやろう。とにかくあの娘達についていってみよう。(驚いた様子で)オヤ、母さんだ!母はとっくの昔に死んだんだが・・・・」
博士「死んでなんかいませんよ」
スピリット「天国へ行ったんじゃなかったのかな?」
博士「聞いてごらんなさいよ。お母さんご自身が教えてくれますよ」
スピリット「霊界という美しい世界にいると言ってる」
博士「霊界は地球を取り巻いているのです。『天国』というのはあなたの心の状態をいうのです。つまり、あなたが心の満ち足りた幸福を感じている時が、天国を見つけたということなのです。イエスもそう説いているでしょ?」
スピリット「母と一緒に行きたいものです。素晴らしい女性になっている。マクドナルドも連れて行きたい。マクドナルド、こっちへおいでよ。こんなところにはもうこれ以上いたくない。お前も一緒に来いよ。何か必死で目を覚まそうとしているみたいな仕草をしている。さあ、元気を出せよ、マクドナルド。お互い、ましな人間になって、あの娘達について行こうじゃないか。俺はもう行くぞ。何だってあんな女にくっついてるんだ、まったく。俺はもう恥ずかしくなってきたよ。じゃあ、行くよ。グッバイ」
バートン夫人「ちゃんとみんなを連れてってやってくださいよ」
博士「お名前は?」
スピリット「ハリーだ。それしか思い出せないよ。永いこと自分の名前を聞いたことがないもんでね」
博士「他の人達にも、いつまでもこんなところにいるのは愚かなことだということを理解させてやってくださいよ」
スピリット「みんな連れてってやろう。さあ、みんな!この俺についてくるんだ。一緒に行きたがらない奴は承知しないぞ!一人の女につきまとうなんて、恥ずかしいと思わんのか。さあ、俺と一緒に行くんだ。ご覧よ、みんなこっちへ来るよ。俺がまとめて面倒を見てやろう。じゃあね」